漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

納税者よ変われ どう払いどう使う 「お任せ」やめよう(三木義一先生インタビュー)

 

3年近く前の記事ですが、これも年末に発掘しました。

民間税調の発足は画期的な出来事でした。当時のその熱が感じられる記事です。

 

 

「税は誰が決めるのか」

民間税制調査会座長 三木 義一さん  朝日新聞 2016年 3月16日記事

納税者よ変われ どう払いどう使う 「お任せ」やめよう

 

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軽減税率導入を含む税制改正関連法案の審議が大詰めを迎える。税制は私たちの暮らしを変えるのに、ひとごとのように政治任せにしていないか。民間税制調査会を立ち上げた三木義一さんはそう指摘する。少子高齢化で負担の分かち合いがますます必要になるいま、税制は誰がどのように決めるべきなのか。民主主義と税を考える。

 

 ―安倍音三首相が最近、「成長と分配の好循環をつくる」などと、しきりに富の「分配」を強調するようになりました。
 「法人税の減税をはじめ経済成長一本やりだったのに、少し変わってきましたね。成長すれば社会の格差を縮められる、という考えは間違っています。国際NGOオックスファムは今年、世界で最も豊かな62人の富の合計が、世界の人口のうち貧しい方の下から半分、約36億人分の富とほぼ同じだとの分析をまとめました。そして、もっぱら経済成長について議論してきたダボス会議(世界経済フォーラム)でこの分析結果を示し、警鐘を鳴らしたのです」
 「格差を正していくには、税制を軸に、所得や資産の再分配を強めることが不可欠です。相続税などの資産課税や所得税については正面から強化を打ち出し、富裕層には富を社会に戻してもらう必要があります」

 ―三木さんが昨年立ち上げた民間税制調査会(民間税調)の主張の柱も「分配」でした。
 「『国民のための税制改革』を掲げ、政府や与党の税調の向こうを張って改革大綱をまとめました。まず、富裕な企業や個人が利益を国外に移して過度な節税を図る租税回避の道を封じる。その上で、所得税は裕福な人ほど税率が高まる度合いをさらに強め、消費税とあわせて二つの基幹税と位置づける。それによって格差を縮めるべきだと提案したのです」
 「もう一つの柱が『社会保障と税・保険料の一体的改革と公平性』です。再分配に目配りするには、負担と給付の両面からの検討が欠かせません。負担では納税以外に医療や介護、年金の保険料があり、それらをもとに社会保障給付が行われています。政府・与党は『一体改革』と言いながら、消費税の税収を社会保障に充てるだけの対応にとどまっている。税制は税調だけで議論され、社会保障は予算案の編成作業の中で取り上
げられる。そんな縦割りの構造を改めるべきだというメッセージを打ち出しました」

 

 ―消費税では、税率10%への増税に合わせて飲食料品などの税率を8%に据え置く軽減税率の導入が固まり、税制改正関連法案が衆院を通過しました。昨年末の改正論議では、税収減を心配する自民党税調は軽減税率に慎重でしたが、公明党が強く求め、首相官邸公明党に同調しました。減収額は年1兆円に及びますが、どう穴埋めするかが決まっていません。
 「消費税には、所得の少ない人ほど負担が重くなる『逆進性』という問題があり、何らかの対策は必要です。しかし、軽減税率は豊かな人までが恩恵を受け、逆進性の解消にはつながらない。税収の目減りが大きい割に、再分配の効果は小さい。極めて非効率な制度です。しかも、さまざまな業界が軽減税率の適用を受けようと、政治に働きかけるでしょう。政治家は増税だけでは選挙に落ちると考えるもの。選挙での票や政治献金もからんだ不透明な取引が横行しかねない」

     ■  ■

 ―税制改革では、伝統的に政府より与党が主導権を握ってきました。ところが安倍政権では、軽減税率問題をはじめ、首相官邸トップダウンが目立ちます。税制改革の事務局として政治家の背後に控える財務省を含め、税制は誰が決めるべきでしょうか。
 「私か専門スタッフとして税制改革を手伝った民主党政権は、検討の場を政府税調に一本化しようとし、会長を務める財務相の下、各省庁の副大臣がメンバーに入りました。議院内閣制なのだから、政党より政府、官僚ではなくて国民に選ばれた国会議員が主導するという意思表示です。ところが、議員が省庁や業界の代弁者になってしまった。準備と経験が不足していた結果でしょうね。目指す社会像とそのための税制を政党が示し、政権を競うという構造になっていなかった」
 ―政府の主は首相ですね。安倍政権の官邸主導は、民主党が目指そうとした方向と重なります。
 「首相がリーダーシップを発揮するのは、必ずしも悪いことではないかもしれない。ただ、強い権力を持った安倍さんは、『税金はいや』という従来型の国民のイメージに沿って、選挙対策を意識して税制を決めていないでしょうか。消費税の増税も実施はしましたが、その決定を主導したのは民主党政権です。深刻な財政難をもたらしたのは、かつての自民党長期政権だけに、民主党に同情したくもなります」
 ―でも、民主党も「予算を見直せば、増税なしに新たな政策の財源をまかなえる」と幻想を振りまきました。
 「そこが民主党の甘さでしたね。政治とは、税金とその使い道を決めること。支払った税金がきちんと使われるという政府への信頼感が生まれれば、納税者も税の有意義を認識するはずです。国民の声がもっと税制に反映される仕組みを作ることが重要で、それこそが政治家の役目でしょう」
 「納税者も問われます。民主党への政権交代に伴い、軽い負担でより多い便益を受けられると思ったのは完全に錯覚です。私たちが民間税調を立ち上げたもう一つの動機として、『まずは納税者が変わりましょうよ』と呼びかけたかった。税金はお上が勝手に決めるものだとして、とにかく逃げ回ろうとするのは、そろそろやめにしなければ」

 ―軽減税率の導入論議では、公明党が「痛税感の緩和」を訴えました。
 「『痛税感』という言葉には、国民が自ら社会にかかわり、自分たちのための政府にお金を託すという姿勢が感じられません。天皇が主権を持っていた明治憲法時代の発想で税が語られていると言ってもいい。これでは、国民は常に減税を求め、減税が正義になってしまいます」
 「日本国憲法は、主権者である国民が政治家に命じる規範です。ところが納税に関しては『義務』だけが盛り込まれた。これでは戦後の税制も戦前と同じだと言っても過言ではありません。税金は国を運営するための資金として私たちが自ら出し、支出のあり方も決めるという権利でもあるのです」
 「民主党政権時に納税者憲章を作ってもらおうと動きましたが、実現しませんでした。『納税者に権利なんか認めていいのか』という反対が、財務省財務省出身の自民党議員に強かった。そうした一部の関係者が税制を独占してきた弊害がいま、表れています」

    ■  ■


 ―納税者の税制への意識を高め、参加を促す。繰り返し語られてきた課題ですが、具体策はありますか。
 「サラリーマンヘの給料の支払いで、年末調整をやめ、全員に確定申告してもらうことからはじめるべきでしょうね。毎月の給与から一定の税金を天引きする源泉徴収は、納税事務を効率的に行うために続けるとしても、年末の調整まで会社任せでは税金について考えなくなってしまう。住宅ローンや医療費に伴う控除を受けるため、サラリーマンでも確定申告する人は増えている。源泉徴収で多めに引き去って、確定申告で払いすぎた分を戻す仕組みにすると面白い。高額所得者に戻さないようにすれば、再分配にもなります」
 ―民間税調の挑戦、2年目も続けます?
 「迷いましたが、やります。日本では、税制にかかわる民間からの運動があまりにも弱い。野党も税制を決める力を磨けていない。私たちがわずか数人のボランティアで始めた活動でも、提言はメディアにけっこう取り上げられました。政府・与党が決めるのとは異なる税制があり得ると知らせることができた。メディアも国民も、現状のままでいいとは思っていなかったことがわかり、勇気づけられています」

 

 みき・よしかず 1950年生まれ。専門は税法。青山学院学長。学者や弁護士、エコノミストらと民間税調を設立し、昨年末に独自の税制改革大綱を作成。

 

そして、三木先生のこの考えが強く反映されているのがこの本。

 

日本の税金 第3版 (岩波新書)

日本の税金 第3版 (岩波新書)

 

 

同特集には、与謝野馨先生のインタビューも併録されていました。

 

政治的な思惑超え決断せよ

衆議院議員 与謝野 馨 さん

 税制改革は政治そのものです。新しい税の導入や増税といった「不人気政策」はとりたくない。でも財政が心配だ。どの国でも、この二つの課題の間を揺れ動いてきました。
 税制は誰が決めるべきか。私は、官僚ではなく国民代表という責任ある立場にある国会議員、そのなかの与党の税制調査会のメンバーが決定していくべきだと考えます。
 様々な団体や議員個々の意見は細かいところまで聞きつつ、無理な要求はのまずに税制としての筋を通す。自民党税調にはそんな良き政治手法が定着してきました。消費税導入に向けて動き出した1980年代後半、当時の山中貞則会長が税調の総会で「諸君はこれより消費税の議論を始めるが、これは(選挙で落ちる恐れがある)とても危険なことだ。それをまず自覚してほしい」とあいさつされたのが印象に残っています。
 税制の検討が政治的になりすぎると、ポピュリスムに陥ります。目前の選挙だけを見た政策選択は日本の針路をゆがめる。消費税の軽減税率の導入は、欧州の多くの国のように、いずれ基本税率を15~20%に上げざるをえなくなる時代をにらんだ予行演習と考えれば理解できます。しかし、決定の過程に問題がある。「官邸主導」などと言って、税制の知識がない少数の人間が政治的思惑で決めるのはよくありません。
 ポピュリスムを乗り越えるためにも、民間人の意見は大切です。このところダボス会議で格差の拡大が議論され、米国の大統領選では民主党の候補者選びで格差縮小を訴えるサンダース氏が健闘しています。資本主義のもとでは所得や資産の格差拡大が避けられないことを解説したピケテイ氏の著書「21世紀の資本」がベストセラーにもなりました。民間税調が「再分配」を主張し、様々な観点を提起してくれることは好ましいことです。
 しかし、民間の役割はそこまでです。決定はあくまで、責任ある立場にある国会議員が行うべきです。意見はよく聞く、でも責任を負うのは自分たちだという気概を持ち、長期的な視点にたって決める。そうした仕組みであるべきです。
(聞き手はいずれも 論説委員田中雄一郎 青山直篤)

(よさの・かおる 1938年生まれ。政策痛として知られ、自民党税制調査会長、内閣官房長官財務相などを務めた) 

 

以上、備忘です。

その後、与謝野先生はがんで亡くなりました。上に引いた記事に関係する著作はこれでしょうか。

 

民主党が日本経済を破壊する (文春新書)

民主党が日本経済を破壊する (文春新書)

 
全身がん政治家

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