『1年で億り人になる』戸塚真由子、サンマーク出版、2022年
「億り人」になるには、最初に大きな資金調達をして、リターンの安定した現物投資をすべき。
ベストセラーのこの本、少し前に読みました。
タイトルからしてあやしいこの本、長いこと敬遠していたのですが、あれよあれよというまに評判がよくベストセラー。職業柄、無視できないな、と思い中古市場をみていても、なかなか値下がりもしなかったので手に取りました。
読んでみた感想は、具体的な説明は少ないものの、方向としては十分納得できる内容。勉強になりました。
といっても、わたし自身が「億り人」ではないので、エラソーなことは言えませんが。
簡単にまとめると、本書の方針は、勇気を出して桁違いの現物投資を実行して安定したリターンが得られる態勢を構築しよう! ということで、そのための大まかな方針とマインドの作り方、作者の体験が述べられています。
この「勇気を出して」というのが大事なところで、多くの人が誤解していたり、踏ん切りがつかなくて一歩踏み出せないところですが、複利運用や現物投資の仕組みをロジカルに考えるなら、億り人は決して絵空事ではない、と筆者は言います。
儲けようと考えれば考えるほど、人は「稼ぐこと」に力を入れてしまう。
そうではなく、お金を増やそうと思うなら、まず大きなお金を調達して、なるべく大きな現物投資をしてお金に稼いでもらうという「安定したリターン」を生む構造を作るべきである。
それは難しいことではなく、意識改革をすれば、必ずあなたにもできるのです!
これもまた、ピケティの「r>g」の変奏といえるでしょう。
「現物投資による安定したリターン」>「稼ぐ力」
というような。
ここまでなら、特に目新しいことを言っているわけではありません。
わたしがおもしろいと思ったのは、「まず大きなお金を調達すること」が大事、としているところ。作者は、そのためにはサラリーマンでも会社を設立して銀行融資を受けるのが近道だ、とも書かれています。
この考え方は起業家の考え方。考え方の転換を促す、または少なくともこういう考え方を知る、という意味で、この本がベストセラーになったことは意味があると思います。
さて、税理士としてわたしが注目したのは以下の箇所。
少し長くなりますが、引いておきます。
お金の鉄則29 「頼れる税理士」は最強の味方となる
株式会社を持つと、決算が必要です。決算は税理士にお願いしないとなかなか難しいです。早めに相性の良い税理士を探しておくのがベスト。
優秀な税理士は基本的に忙しいです。特に決算や確定申告が重なる1~4月頃に税理士を探すのはやめましょう。税理士もいい人から売れていきます。
繁忙期にスケジュールに余裕がある税理士は、もしかしたら人柄や能力に問題があるかも……。あくまで邪推ですが。
「頼れる税理士」は最強の味方となる・・・素晴らしい言葉です!
手前味噌ですが、その通りですよ。
そして、相性の良い税理士を探しておくのがベスト、というところは完全に同意。
顧客とのWin-Winな関係を目指すわたしとしては完全に同意します。
しかし、1-4月に云々、というところに軽い違和感が。
この時期に初見の相談が多い、というのは、この業界の「あるある」です。
だからこそ、なんとかしてスケジュールをやりくりして相談に応えようと四苦八苦するわけで、そこを無視して「この時期に余裕がある税理士は人柄や能力に問題があるかも」と言われてしまうのは心外ですね。法人と同じくらい個人の顧問先が多い当法人のような税理士事務所は、確定申告時期は大げさでなく職場が戦場となります。が、それでも新規の方とお会いすることを大事に考えているわけで、こんな風に考えられてしまうのは残念ですね。
この部分、誤解を招く表現ではないでしょうか。
読み進めていきましょう。
また、こちらが作りたての法人なのに、大手税理士事務所のところに行ってもたいてい相手にされません。大手税理士事務所は大手企業と積極的に契約を取りたがります。売上が高い大手企業のほうが、格段に顧問料が高いからです。
税理士の繁忙期を除いた時期に、会社経営をしている知り合いから税理士を紹介してもらうのが理想です。私も知り合いの社長からの紹介で知り合った税理士さんにお願いしていますが、とても優秀でフットワークも軽く、とても助かっています。
いい出会いがあってよかったですね!
「『頼れる税理士』は最強の味方となる」本当にその通りだと思いますよ。
しかし、次のところで、また違和感が。
税理士費用は、決算だけなら安い場合1回10万円ほど。月々の顧問もお願いするなら、年間30万円くらいが相場です。
「30万円は高いな」と感じる方もいるかもしれませんが、それに見合うだけの価値は必ずあります。
それだけ費用をかけても、もらえる給付金や融資や個人より大きいですし、節税もできます。メリットは、ほんとうにとてつもなく大きいのです。
法人決算が10万円……。
FIREを目指し、銀行融資も問題なく審査通過する内容の申告だとすると、それは本当に安いです。破格の報酬といってもいいでしょう。
「月々の顧問料も含めるなら30万円くらいが相場」って、ホントですか?
規模、業種にもよりますが、法人でこの金額、決して相場ではありませんよ。
売上規模1,000万円未満、完全自計化、巡回報告リモート・事務所対応、インボイス未登録、なら、win-winな相場かなあ、と。あくまで売上形態・業種によりますが。
ベストセラーであり、影響力が大きい本なので、細かいところですが指摘せずにはいられませんでした。
同業者の先生、またはFIREを目指す方々のご意見をうかがいたいところです。
ケチをつける形になってしまいましたが、本気でFIREなり、投資による資産運用目指す人には、この本は、この本は有用であることは間違いありません。
ただ、あえて批判的な意見を述べておくと、現物投資をするためには、決して小さくない資金調達が必要であり、そのリスクと精神的負担が軽視されているように感じました。その意味で、この本は堅実な「お金教育の本」ではなく、わたしの考え方とは異なるところがあります。
もっとも、これは従来の日本の投資に対する考え方があまりにも保守的なものだったためとも考えられますので、戦略的なものなのかもしれませんね。
最後に、わたしが考える、この本の特徴を3点挙げておきます。
・現物投資という言葉のチョイス
・初期資金調達の重要性の提唱
・女性「億り人」の著作
最後の視点は、この記事ではあえて注目しなかったのですが、今後一考に値するテーマだと思います。ヒントは、著者の写真が一切掲載されず、「美人〇〇」とか「女性のための△△」という売り出し方がされていないこと(cf. 馬渕磨理子)。
少なくとも、わたしは筆者が女性であるということをまったく意識せずに購入しました。女性投資家の流れ、気になるところです。
・・・・・・まあ、でもわたしは細々とインデックス投信を続けるんですけどね。