漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

H31年度与党税制改正大綱、税理士会による評価。(日本税理士会連合会会長 神津 信一)

税制改正が発表されました。この改正内容の理解、整理、顧問先などへの広報に、税理士業界は忙しい季節です。

そんな中、日本税理士会連合会のこの改正の評価・回答として、会長 神津 信一 先生のコメントが発表されました。このコメント、ネット上に挙げられていますが、前回記事と同じ『税理士界』第1371号(日本税理士会連合会発行 H30 12/15号)にも掲載されました。

 

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平成31年度与党税制改正大綱について(会長コメント)
2018 12/14
日本税理士会連合会
会長 神津 信一

 平成31年度与党税制改正大綱において、当会の建議項目が数多く盛り込まれました。

 昨年大幅に拡充された事業承継税制について、資産管理会社の判定方法が見直されます。当会は、判定期間内に1日でも該当すると納税猶予取消しとなる現行制度について、設備投資のための借入等を萎縮させるおそれがある旨指摘していましたが、今回の見直しでこうした弊害が解消されることになります。

 仮想通貨取引やシェアリングエコノミーなどの新たな形態に係る課税の適正化措置として、高額・悪質な無申告者を特定するための事業者への情報照会手続が整備されます。国税庁は、当会を含む関係者との丁寧な議論を積み重ねた上で11月に「仮想通貨関係FAQ」等を公表し、納税者自身による適正な納税義務の履行を後押しする環境整備を行ったところですが、こうした取組と相まって、適正・公平な課税が確保されることを期待いたします。

 民法(相続関係)改正に伴う税制措置として、所要の改正が行われます。その内容は概ね当会の建議に沿ったものとなっており、詳細については、今後、通達等で明らかになっていくと考えられます。民法改正の趣旨を損なわず、かつ、公平・中立な課税となるよう求めるものであります。

 eLTAXに障害が発生した場合に、総務大臣告示により申告等期限を延長する旨が明文化されます。国税については平成29年度税制改正で明文化されましたが、地方税については、各地方団体が条例で延長するとされているため対応が不統一でした。2020年4月からの大企業の電子申告義務化を控える中、適切な改正であると評価いたします。

 このほか、未婚のひとり親への住民税の軽減措置、電子帳簿保存制度の要件緩和、税務手続のオンライン化の推進などについても、当会建議に沿った改正内容となっています。

 なお、現行の小規模宅地等の特例に係る今後の見直しに当たっては、個人版事業承継税制の意義・効果の検証を含め、慎重かつ丁寧な議論を切望いたします。

 消費税の軽減税率制度及び適格請求書等保存方式については、税務の専門家として、引き続きその円滑な実施に向けた準備を進めると同時に、あるべき税制の構築に向けた建議を継続してまいる所存です。また、税率引上げへの対応として検討されているポイント還元等については、その準備等のため事業者に過度の負担がかからないよう最大限の配慮が必要です。

 税理士法には、税理士会は税制について建議することができると規定されており、国民・納税者の視点に立って建議を行うことは、税務の専門家団体である税理士会に課せられた公共的使命です。今後とも、あるべき税制の確立と申告納税制度の維持・発展のため、積極的に意見を表明してまいります。

 

 このコメント、公式な意味合いが強いため、硬い文体となっていますが、その評価内容はかなり明確。単純に、上から順に主張したい事柄が並べられていると考えてよいでしょう。

  事業承継税制は評価するが、事業者への情報紹介手続の整備には危惧を表明。相続に関する配偶者居住権や家族信託について実務面を考慮した法整備を求め、個人版事業承継税制は、中小法人の事業承継税制のときと同じような混乱が生じないように考慮してくれ、と「切望」。消費税の軽減税率制度については……いい加減やめてくれ! と言い続けてきたけど、もう反対しても無駄だから実施に尽力するしかないが、しかし「最大限の配慮」が必要だぞ、税理士会としてはもう一度言っておくからな、といったところでしょうか。

 この神津会長のコメント、多くの実務家税理士の先生も同様の感想をもたれるのではないでしょうか。一般紙ならば真っ先に紹介される、住宅ローン控除の延長や自動車税については言及されていないところが興味深いです。

 わたし個人の感想としては、各省庁、政党の政治的駆け引きに終始した結果、根本的な改正は行われなかった、というところです。これについては朝日新聞記事の今回の税制改正の記事に賛成です。

 

 

減税ありき、課題先送り 議論、財源探しに終始 税制大綱

朝日新聞 2018, 12/15)

 自動車や住宅の減税を柱とした来年度の与党税制改正大綱が14日決まったが、来年10月の消費増税対策を優先し、減税ありきの議論に終始した。負担増の議論は避けられ、格差問題など、税制が抱える課題を解決するための抜本改正は軒並み先送りされた。

 「今回一番大事なことは、消費増税と軽減税率の導入を着実にやっていくこと。何とか所期の目的に沿う形でまとめられた」

 大綱決定直後に会見した自民党の宮沢洋一税制調査会長は、こう強調した。大綱には、増税で消費への影響が懸念される住宅や自動車の減税策が並んだ。

 だが、税調での議論は、減税の細かい財源探しにばかり費やされた。

 自動車業界の意向を受け、経済産業省は恒久減税を主張したが、総務省財務省は当初、「財源がない」と反発していた。

 安倍晋三首相は党税調の議論が始まる前の10月、自動車の減税を検討する方針を表明。首相に近い政権幹部から「これができなければ、消費税は二度と上げられない」との圧力がかかると、恒久減税を容認する流れになった。

 結局、エコカー減税の縮小などを組み合わせて財源は確保したものの、減税効果も中途半端なうえ、複雑で分かりにくい税制ができあがった。電気自動車や「カーシェア」の普及など、自動車をめぐる環境変化に対応した税制の抜本改革は、将来の検討課題にされただけだった。

 婚姻歴のないひとり親への支援策も、税調が決めきれず、最後まで調整が難航した。もともと婚姻歴の有無で、ひとり親の税負担に格差が生じるという「寡婦寡夫)控除」の問題が発端だったが、控除の改正は見送り。来年度は予算面での支援で乗り切り、引き続き議論するという玉虫色の結論となった。

 

■来年に選挙、負担増は封印

 税制に精通した専門家が取り仕切る自民党税調はかつて、ときの首相の意向とも一線を画し、税制改正の議論を主導する「聖域」と呼ばれた。だが、安倍政権下では、税調よりも首相官邸の意向が色濃く反映されることが常態化している。

 その一番の転換点となったのが、2015年末に決めた軽減税率の導入だ。導入を強く求める公明党と導入反対の自民税調が対立。最後は、翌年に参院選を控え、公明の意向を重視した官邸が当時の野田毅税調会長を更迭し、導入を決定づけた。以来、一昨年の「配偶者控除」の見直しや昨年の会社員らの「給与所得控除」の縮小など、公明党や官邸の意向で、改正内容が変わることが相次ぐ。

 かつての強い自民税調は、その一方で、多くの政治家が嫌がる負担増の決断もしていった。だが、税調の調整力が衰えるにつれ、増税を伴う見直しに踏み切ることは少なくなった。

 消費増税に加え、統一地方選参院選を来年に控える今回も、負担増の議論は封印された。その典型が、株取引などの利益にかかる金融所得課税の強化だ。格差是正に必要な改革だが、株価を重視する首相官邸は首をたてには振らない。財務省は「今年は絶対無理」(幹部)と、早々に撤退。税調ではほとんど議論されなかった。

 働き方が多様化するなか、労働形態によって税優遇に大きな格差が生じる問題や、老後の資金をめぐる税制を高齢化時代にあわせて見直す問題など、待ったなしの課題は積み上がる一方だ。何より、先進国で最悪の借金頼みの財政状況をどう改善するかという難題が横たわる。14日の会見で、10%超の消費増税について問われた宮沢氏は「社会保障の大きな方向性が今後議論されていく。それがある程度進んだとき、消費税も含めた財源も議論されるのだろう」と述べただけだった。

 (伊藤舞虹、豊岡亮、今野忍)

 

キーワードは、増税による景気への影響を軽減するための減税対策、その財源をめぐる総務省経産省財務相の折衝。税調の「論理」よりも強くなった首相官邸(安倍首相?)の「意向」でしょうか。実務的には、住宅ローン控除が3年延長され、控除期間が「13年」というところがなんというか見苦しいなあ、と。

現行では贈与税、暦年課税の基礎控除額は110万円ですが、こんな中途半端な数字になったのは、毎月10万円の贈与を非課税としたい公明党と、暦年100万円で抑えたいという自民党との折衝の結果だったとか。控除期間13年はまさにこれと同じことなのではないでしょうか。

以上、税制改正の総論、というか個人的な感想です。

では、これを基に、水無瀬野はどのような広報をしていくべきか…。これについてはまたいずれ書きます。

 

税制改正経過一覧ハンドブック

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