漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

1/25朝日新聞「耕論」について思うこと。(1)

朝日新聞の「耕論」はいつも興味深く読んでます。教科書通りに異論を併置して、多様性・議論の深まりを狙っているところも好感がもてます。もっとも、森達也先生も繰り返し指摘されているように、併置すればいいといいうものでもないし、その紙面上の構成、論の提示の順番で、読者の印象はかなり操作されます。その意味では、最近の朝日新聞はちょっとあざとすぎるというか、編集意図がスケスケです。池上先生が解説したくなるくらいにもう少し巧妙に操作した構成にしてほしい、というのが最近の私の感想です。

こう書くと朝日新聞を批判しているかのように読めるかもしれませんが、そんなつもりはありません。「新聞を読む」とは純粋な情報を知識を知る、というよりはその新聞の「色」寄りの思想を読む、ということなわけで、わたしは意識的に朝日節を楽しんでいます。少し偏っていることに不満があるわけではありませんし、むしろその偏りを期待していのです。

しかし、先日、1/25の「誰でも10%だなんて 【特集】消費増税」と題された記事は、わたしには疑問が残るものでした。各人の意見に、というよりは、その構成について、です。

 

 

誰でも10%だなんて 【特集】消費増税

 今秋、消費税が上がる。誰でも同じ10%。低所得者ほど負担が重いのはなんだかいびつだ。とはいえお金持ちが多めに払うには限界があり、税逃れもある。税の公平性、どうすれば?

 

この紹介文から、まずは漫画家の慎結(しん ゆい)さんのコメント。市役所勤務の経験をもとに描いた『ゼイチョー!』作者としての意見を求められているわけです。

この時点でわたしは「?」なのですが、とりあえず、意見を拝聴しましょう。繰り返しますが、わたしは慎結さんの意見に批判があるわけではありません。

 

■持たざる人への負担重く 慎結さん(漫画家)

 

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 税金を徴収する市役所の新人女性職員を主人公にした漫画「ゼイチョー!」を描きました。税金を滞納した人からただお金を取り立てるのではなく、さまざまな制度を使って税額を減らし、生活の立て直しを提案するという物語です。

 私は生活のため市役所の非常勤職員として数年間アルバイトしたことがあり、その経験を元にしています。税金を徴収する部署で、お金の計算などの事務をしていました。

 窓口に来る人たちは、お金がない深刻な状況を相談し、泣き叫んだり、怒鳴り込んできたりする人もいます。職員は極力一人一人に親身に対応していますが、とても大きな負担がかかっているのが現状です。でも、自分も滞納した人たちと「同じ側」だと感じたからこそ、理想を描いてみたかったのです。

 アルバイト暮らしの頃、生活できるギリギリの額しかもらっていないのに、税金、年金、健康保険料が引かれて、手元に残る分は本当に少なくて悲しかった。生活が苦しいのになぜこんなに納めないといけないの?と思っていたから、滞納した人の行き詰まった思いがよくわかりました。

 税金や保険料による恩恵は、ひしひしと感じております。子どもの頃に手術をした時、その支払いがとても少なくて済んだのは誰かがお金を負担してくれたからだと、今でも恩を感じています。

 それでも納税はしぶしぶです。特に消費税は、お金がない人の方が、持っているお金に対して税として払う額の割合が大きく、家計を苦しめる大きな要因になっています。消費税は社会保障に使うと言われますが、それならなぜ社会保障が必要な人も同じ税率なのでしょうか。

 健康な人も病気の人も、子どもも老人も外国人も、同じ場所でぎゅうぎゅうと暮らしているのがこの社会です。一番大事なのは、誰もが、本来死ななくていいはずの病気や貧困によって命を落とすことなく、生活を営めることではないでしょうか。そのために、大企業や超富裕層が、もう少し税を負担するような仕組みを考えても良いのではないでしょうか。

 庶民同士で「あいつの方がもらっている」「あいつは税金を払っていない」などといがみ合うのでなく、大きな不平等に目を向けた方が良いと感じています。

 税制の知識があれば、税額を抑えることもできます。しかし、税額を減らせる控除などの仕組みを知らずに、払いすぎている人も少なくありません。一方で、たくさん稼いでいる人は、プロの知識を借りて税金対策をしています。まずは、みんなが理解できる簡単な税の仕組みに変えたり、義務教育で手続きなどを教えたりするべきだと思います。(聞き手・高重治香)

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 しんゆい 2003年デビュー。女性漫画誌「BE・LOVE」で特別養子縁組をテーマにした「かぞくを編む」連載中。

 

消費税の問題点である「逆進性」の問題に触れ、一般庶民、特に低所得層の立場からの意見を代表しての構成です。……でも、慎結さんが経験されてるのは市役所勤務、地方税じゃないですか。インタビューイーの選定、間違ってませんか?

この立場からの消費税の増税に関しての意見なら、国税関係の現場がふさわしいのではないでしょうか。たとえば、消費税は間接税であり、「納税義務者」と「税負担者」が異なります。そして消費税の納税義務は課税売上高で判定するため、赤字であっても納税義務が生じることがあります。いくら税務署や顧問税理士に説明されても、赤字なのに多額の税金を納めなければならないこの感覚は、経営者にはなかなか納得できないようです。

また、慎結さんが述べられているように、庶民同士でいがみ合うのではなく、大きな不平等に目を向けるべき、というのはまったくその通りだと思います。しかし、ここで言及されている低所得層(という言葉はあまり使いたくありませんが)にとって、消費税の負担・逆進性はまっさきに改善すべきことでしょうか。実務の感覚からすると、一番大きな不安材料は健康保険料であったり、行政からもらえる補助金の衒学・打切だったりします。その意味でも、どうして慎結さんに? という疑問は拭えませんでした。

 

で、次に異なる立場として、民間の金融関係の法人の社長として冨田和成氏と、税の専門家として諸富先生の意見が併置されるのですが、この人選もどうなのでしょうか。

特に冨田和成氏、消費税についてはまったく言及してません。というか、この特集のテーマである消費税は、富裕層に優しい「逆進性」がその特徴であるのに、「世界的に見て、日本は富裕層に厳しい国だと思います。」なんて言っちゃってます。これ、慎結さんの意見の後に置かれていることを考えると、冨田氏が「日本は富裕層に厳しいから、多少の逆進性は問題ない」と考えているように読めちゃいますよ。

……などなど、この特集に関してはもう少し言いたい/考えたいことがあるので、続きます。

 

ゼイチョー! ~納税課第三収納係~(2) (KCデラックス)

ゼイチョー! ~納税課第三収納係~(2) (KCデラックス)

 
ゼイチョー! ~納税課第三収納係~(3) (KCデラックス)

ゼイチョー! ~納税課第三収納係~(3) (KCデラックス)

 
ゼイチョー! ~納税課第三収納係~(4)<完> (KCデラックス)

ゼイチョー! ~納税課第三収納係~(4)<完> (KCデラックス)