漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

「粗飯料」は債務控除の対象となる?

6月になり、いよいよ暑くなってきましたね。

新型コロナウイルスは日光に弱い、という話を何かで読みました。

コロナに関しては、すべてがまだ研究段階だと思いますが、もしこれが本当だとしたら、夏は「自然の消毒」が人類には有利に働くような。

しかし、エアコンで密閉、にも気をつけなければなりません。

 

 

ここから今日の本題。

先日、相続案件でお客様を訪問したときのことです。

 

f:id:Auggie:20200605045505j:plain

 

このお客様は確定申告で長いお付き合いがあるお客様なので、相続関係を確認する資料や相続財産の確定などは比較的スムーズに進みました。

しかし、債務・葬式費用を確認する際に、耳慣れない言葉が出てきました。

 

「先生、ソアンリョウも葬式の金額に入れていいんかいの?」

 

? ソアンリョウ? ソハンリョウ? ソサンリョウ?

不勉強にして、この言葉を漢字変換することができませんでした。

聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。

というか、詳細を聞かないと葬式費用の金額が確定できません。

聞いてみると、「ソハンリョウ」は「粗飯料」と書くようです。

 

なんでも、今回の葬儀は、このコロナ騒動で一般的な形では執り行うことができなかったとか。通夜の食事や、葬儀後の食事などを提供することができなかったので、足を運んでいただいた方などに、食事の代わりに「粗飯料」として数千円程度お渡しされた、とのことです。

 

f:id:Auggie:20200605050025p:plain

 

もう少し詳しく話をうかがうと、この地方の風習として、コロナに限らず、何か事情があって食事会に出席はできないけれど、少しの時間でも足を運んでいただいた方などに「粗飯料」としてお金を包むのが一般的だとか。

 

ふむ。

ここで少し考えました。

この「粗飯料」、葬式費用として相続税の計算上、控除できるのだろうか?

というのも、話の流れで、一瞬これは「香典返し」の一種かな? と考えたからです。

 

 

しかし、香典返しは、葬儀のずっと後の忌明けにするのが一般的ですし、当日返しの場合も品物をお送りするのがふつうです。

聞けば、香典返しは香典返しとして、ほかの品物を用意しているとのこと。

 

さて、困ったときは原理・原則で考える。

この「粗飯料」は、本来ならば葬式費用として支出するものです。

で、今回は通夜・葬儀に関して、食事関係の支出はなし。

……となると、この「粗飯料」は葬式費用の一部でしょう。

お客様には、その場で葬式費用と考えられます、明細をご用意ください、とお返事しました。

 

翌日、事務所に戻って専門書をざっと調べて、念の為管轄の税務署に確認。

葬式費用として控除できることを確認しました。

そりゃそうです。

原理・原則から考えると、控除できないとおかしい。

 

あ、ちなみに、相続税の計算上、相続財産の合計額から控除できるものとして「債務」と「葬式費用」がありますが、この2つはもともと別物ですよ。

 

だって、「債務」は被相続人が生前(相続前)にこしらえたマイナス財産ですが、「葬式費用」は死亡により(相続後)に発生した支出だからです。

 

f:id:Auggie:20200605052409p:plain  f:id:Auggie:20200605052434p:plain

 

 

納税義務者の観点から厳密に考えると、この2つは全く性質が異なるものです。

だから、相続税の申告書でも項目が別になっているわけで。

相続人の方で、特に経理などを専門にやられている方は、このあたり気になる方がいらっしゃいます。いろいろなお客様がいらっしゃるので、中には、以上のことを理解した上で、「これも控除の範囲に含めてよ~」なんて言ってくるお客様もいらっしゃいます。

 

そういうときも、原理・原則で考える。

その判断をするのが、専門家の仕事だとわたしは考えています。

勉強になった1件でした。

 

ところで、この「粗○」という表現、ちょっとおもしろいですね。

本を出版して献本するときに「粗本ですが、ご笑覧ください」、

来客をもてなす時に「粗飯で、お口にあうかどうかわかりませんが…」、

演奏するときは「粗音」、実技を示すときは「粗技」、香りを届けるときは「粗香」…などなど(笑)。

 

アホらしい。

けどおもしろい。

 

ああ、敬語文化って、こういう言葉遊びを楽しむものだったのかもしれませんね。正しい表現をしないと失礼に当たる、として叱責の対象とするのではなく、タモリの「ボキャブラ天国」的な、細かくなりすぎた言葉をおもしろがる、というような。

 

はじめての相続税

はじめての相続税