漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

災害で被害を受けた方の確定申告について。「その2」

前回に引き続き、災害により被害を受けた方の確定申告について、

今回は雑損控除についてです。

 

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前回は、ひとくちに「災害により被害を受けたとき」とっても、その被害を受けた資産によって、所得税法上の取扱が異なる、ということを説明しました。今回は、被害を受けたのが自宅や家財などの「生活用資産」の場合の雑損控除について説明します。

 

 

 

1.雑損控除の概要

まずは所得税法の条文をみてみましょう。複雑な事柄は、まずその根本的な考え方をしっかり理解しておくことが大事。この雑損控除なんか、その典型です。

 

雑損控除(所62)

 居住者又はその者と生計を一にする親族で、その年分の課税標準の合計額が基礎控除額以下であるものの有する資産(一定のものを除く。)について、災害、盗難又は横領による損失が生じた場合(災害等関連支出をした場合を含む。)には、次の金額を、その居住者のその年分の課税標準から控除する。

(1) 損失の金額(時価 又は 減価する資産の場合は取得費相当額(≒ 簿価)

(2) 足切り限度額

  ① 原則 …課税標準の合計額の10%相当額

  ② 災害関連支出の金額が5万円を超える場合

    ※ 災害関連支出 = (支出した金額のうちの)原状回復費用 ー 資産の損失の金額(=(1))

    ※※ 損失の金額の合計額から災害関連支出の金額のうち、5万円を超える部分の金額を控除した金額と①の金額とのいずれか低い金額

  ③ 損失の金額がすべて災害関連支出の金額である場合

    … 5万円 と ①の金額とのいずれか低い金額

(3) (1)ー(2) =控除額

 

 これは条文通りではなく、平易な言葉になおしたものです。まず、条文の冒頭でつまずきそうになりますが、要は、雑損控除の対象となる資産は、自分だけでなく、自分が扶養している者が所有する資産も対象になるということです。例えば、扶養関係にある配偶者やご両親、そしてこどもが所有者である資産についても適用があるということです。

そして、計算式で示されていることは、まるまる損失の金額の全額ではなくて、足切限度額を超えた部分だけが控除できるよ、ということです。

 

ここで、足切限度額について説明しておきましょう。

この足切限度額、有名なのは医療費控除の10万円ですね。つまり、控除の対象となるのは、支払った医療費のうち、10万円を超える部分の金額だけ(もっとも、医療費の足切限度額は「課税標準の10%相当額」なので、10万円に満たない場合もあります。10万円というのは上限の金額です)。同様に、寄附金控除の足切限度額は2,000円。

雑損控除のややこしいところ、そして従来いまひとつ適用しにくかったのはここです。雑損控除の足切限度額は、人によって異なるため、なかなか「損失額が○万円以上の方は」という一般的なアナウンスができません。で、とりあえず「課税標準」=「所得」と考えましょう。所得の10%、ということは、給与収入が500万円の方だと給与所得控除が154万円なので所得は346万円。その10%の34.6万円が足切限度額になります。つまり、雑損控除を受けるためには、災害による損失の額が34.6万円以上なければいけない! これは結構な損失の額ですよね。なので、災害による損失を受けたものの、適用に至らない、ということも多々あります。

しかし、そうはいっても、単に損害を受けただけでなく、その修理に支出した場合は、その支出した金額だけでも認めてあげよう。それが上記(2)足切限度額の②の「災害関連支出」です。①の課税標準の10%に関係なく、災害に関して修理などで支出した金額があれば、足切限度額を一律5万円にして、その5万円を超える金額を雑損控除の金額にしよう、という制度です。シロアリ被害などの場合はこちらが多いのではないかと。

 

このように、 雑損控除には足切限度額が2種類ありますので、適用できないんじゃないかと思う場合でも、支出額がある場合は一度その金額を見直してください。5万以上支出した場合は、雑損控除が適用できるかもしれませんよ。

 

あ、雑損控除しても、所得がほとんどないのでしても意味ないからしない、と考えられる方もいらっしゃるでしょう。そんな方でも、面倒でなければしておいた方が得ですよ。というのも、この雑損項の金額、その年の確定申告で控除しきれなかった(引ききれなかった)金額は翌年以降3年間繰り越しできるからです。たとえば、来年から年金収入がある、とか、3年以内に生命保険を解約して、解約返戻金が戻って来た場合(一時所得になります)には、この控除しきれなかった金額をその繰り越した年分の確定申告で雑損控除として控除することができます。しかもこれは白色申告、青色申告の区別はありません。 

 

さて、そろそろ、雑損控除は思ったよりも使える制度なんじゃないか……と考えが変わってきたのではないでしょうか? で、いよいよ問題とるのが「損失の金額」。これをどう計算するのか。ここまで外堀を埋めてきて、やっとこの根本的な問題に立ち向かうことができます(というか、そもそも損失の金額が一定の金額に満たなければ計算しても無意味なので、実務的にはまずこれを考えることから始めるわけですが)。

次回、雑損控除の最終回では、この損失の金額の計算について考えます。

 

災害にあったときの所得税の軽減・免除―雑損控除の手引

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所得税における損失の研究(日税研論集)

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