漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

災害で被害を受けた方の確定申告について。「その1」

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こんにちは。文化系税理士の佐藤です。

みなさん、確定申告で苦労されている時期だと思います。お疲れさまです。必要な方は毎年やっていることとはいえ、1年に1回しか無いことなので、毎回思い出すことから始めなければいけないので苦痛ですよね。税務相談などに行っても、みなさん、この作業が苦痛以外の何ものでもないことが手に取るようにわかります。

そんな苦痛な作業でしか無い所得税の確定申告、その苦しみを増幅させるようで恐縮なのですが、わたしは、特に今年の確定申告で留意すべき点は3つあると考えています。

ひとつめは株式所得にかかる所得税と住民税の別々申告の可能性。

これはすでにこのブログでも取り上げましたね、

  


2つ目は、災害による影響です。今日はこれについて書いておきましょう。

 

わたしの住む北摂は、去年、2回にわたって災害に襲われた年でした。

6月の地震と、9月の台風です。特に6月の地震は、ちょうど下の子どもを保育所にお願いしていたときのタイミングで、一瞬パニックに陥りました。コンビニ、スーパーから食料品がなくなり、マンションのエレベーター、ガス・水道も止まりました。あのときは不便でした。

…って、そんな個人的な話はまたの機会の話にしましょう。

 

もしもあなたが災害にあって何らかの被害にあって、そのことを知人に話すとしましょう。そのとき、その知人の何人かは多分こういうはずです。「え~! 大変だったねえ。でも、そんなら確定申告すればいくらか戻ってくるんちゃう?」…これ、半分あってますが、半分は不正確なんですよね。

細かく考えていきましょう。

 

少しでも会計・経理、または税務をかじったことがある方なら、「災害で被害を受けた」と聞くと、「雑損控除」を連想されることでしょう。まあ、それは間違ってませんよ。今回の災害の多くの場合もこれに当てはまりそうですし。ただ、すべてがそれで解決できるわけではないのです。また、「雑損控除」の処理もさらに場合分けできまして、これについては最後に説明させてください。

 

 

 1.事業用資産

「災害で被害を受けた」と聞いて、わたしがまずお聞きするのは、「その被害を受けた資産は、なにか事業に使わていたものですか?」ということです。その方が個人事業主で、被害を受けた資産がその事業に使われていた資産の場合、その被害による損失の金額は、その事業の必要経費となります。被害の額も、事業に使われていたのなら減価償却資産だとか、仕入れた商品の取得価額などは帳簿に記載されていることでしょう。もう、使いものならなくて、そのまま廃棄されるのでしたら、その帳簿上の金額が必要経費となります。ある意味、これが一番わかりやすいです。

 

2.業務用資産

次に、被害を受けた資産が、「事業」とまではいかないまでも、ちょっとした収入があって、それに使われている資産だった場合。1室だけマンションを持っていて、その家賃収入があるとか、給与収入がメインの収入だけど、それとは別に副業もしている、という場合ですね。この場合も、「事業」を営んでいる場合と同様、その所得の必要経費になります。え? なら、1の事業用資産の場合と同じじゃないかって? それが大きな違いがあるんです。その違いは、この損失によって所得がマイナスになる場合。事業用資産の場合、その損失の金額は損益通算の対象となり、さらに他の所得から控除しきれない場合は、翌年以後3年間にわたって繰り越すことができます。しかし、業務用資産の場合は、必要経費に認められるのはその所得の金額まで。つまり、その所得がゼロになるまでしか認められないので、損益通算の対象にはならないし、損失の金額を繰り越すこともできません。

ただし、この業務用資産が災害による被害を受けた場合は、上記のように必要経費に算入する代わりに、後述する雑損控除を適用することもできます。これは所得税法の法整備の過程によって生じた結果でして、実務的には有利判定を行うことになります。災害により被害を受けた場合は、この判定が一番難しいといえるでしょう。

 

3.生活用資産

そして、自宅や家財などの生活用資産が災害による被害を受けた場合は、雑損控除を適用することになります。ただ、損失の金額がまるまる控除できるわけではなくて、足切限度額が設定されています。医療費控除や寄付金控除と同様、控除できるのはこの足切り限度額を超える金額のみ。この足切限度額が大きい場合、損失があっても、まったく控除できないこともあります。また、この損失の金額のうちに、その災害に関連して支出した金額がある場合は、その支出金額の足切限度額を5万円と考えて、その支出金額のみ雑損控除が適用できます。なので、全体的な損失の金額については控除額はなくても、この災害関連支出金額の分だけ控除できる場合もあります。

 

4.生活に通常必要でない資産

 これで全部か…と思いたいところですが、所得税法はもうひとつだけ、被災資産の区分を設けています。それがこの生活に通常必要でない資産で、競走馬や別荘など、趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産のことです。また、生活の用に供する動産でも、1個又は1組の価額が30万円を超える貴金属、書画、骨とう等は生活に通常必要でない資産と判断します。これらの資産が災害により損失を受けても、その損失の金額は雑損控除の対象にはなりません。ただ、まったく考慮されないわけではなく、この損失の金額は、総合課税の譲渡所得から控除することができます。そして、もしも控除しきれなかったら1年間だけ繰り越すことができます。これは、生活用資産でもあるこれらの資産を譲渡した場合に課税関係が生じることとの整合性を図るために設けられています。

あ、それとこの「生活に通常必要でない資産」という言葉ですが、これはれっきとした所得税法の専門用語です。奢侈品・贅沢品を婉曲的に表現した言葉ではなく、所得税法に定義されたある一定の資産を示している概念なんですよ。

なお、阪神淡路大震災のときには、別荘などの生活に必要でない土地建物が被災した場合には分離の譲渡所得から控除できましたが、平成16年の改正により、この損益通算はできなくなりました。

これについては、簡潔ながらもこちらがわかりやすいです。

 

生活に通常必要でない資産の災害による損失の控除の変遷について(JTRI:公益財団法人日本税務研究センター)

 

控除できなくても、雑損控除は申告したほうがいいと思いますよ、3年間繰り越すことができますので。

 

…で、ここから雑損控除の具体的な計算方法についての説明をしたかったのですが、予想外に長くなってしまいましたので、続きは次回にさせてください。

 

災害にあったときの所得税の軽減・免除―雑損控除の手引

災害にあったときの所得税の軽減・免除―雑損控除の手引