漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

配偶者控除の適用、間違ってませんよね?

平成30年分の確定申告も大詰め。

というか最終日になりました。

 

いよいよ今回は、H30年分の確定申告で留意すべき点の3つ目。

配偶者控除配偶者特別控除の話です。 

……留意すべきてって、そんな大事な話ならもっと早くしてよ。いまさら知っても間に合わないよ、というかもう申告済ませちゃったよ!

ごもっとも。

でも大丈夫。この話は、今年になってからあれこれできることではないんです。すでに30年中で決定してしまっていることなので 、間違った申告をしないようにする/していないか確認することだけなんです。

そう考えると、逆に申告期限日に説明するのも悪くないかもしれません。

H30年の所得について確定申告された方も、年末調整で終えられた方も、もう一度だけ見直してみてください。

 

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H30年から、配偶者控除の適用が変わりました。

つまり、去年の12月に行われた年末調整、そして現在真っ最中の確定申告がこの改正後初の適用となります。

みなさん、この適用、大丈夫ですよね?

 

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簡単に概略を説明しますと、これまで所得控除である「配偶者に関する控除」38万円をまるまる適用する壁は、給与収入にして103万円だったのが、150万円となりました。政府はこれを女性の社会進出を推進する政策だと自画自賛し、メディアでも繰り返し取り上げられていたので、なんとなくこの改正の内容はご存知なはず。

…ただ、この改正は、細かく考えてみると、いろいろと予想していなかった「罠」がある改正なのです。とても「女性の社会進出、ウェ~イ!」と手放しで喜べるものではありません。適用を受ける側も大変ですが、さぞかし、そのチェックする方も大変だろうな、と思います。

以下、順番にその「罠」をみていきましょう。

  

 

1. 枠が150万円に広がってバンザイ! ……って、それ、本当に150万円以内?

まずは基本的なところから。

配偶者控除配偶者特別控除の適用を受けるにあたり、配偶者の方の収入金額/所得金額を、きちんと書面で確認しましたか?

具体的には、給料の源泉徴収票です。

配偶者の方が正社員であっても、パートであっても、給料をもらっているなら源泉徴収票をもらっているはずです。これを確認してください。

そして、給料以外にも、臨時的な収入ありませんでしたか?

不動産所得や事業所得、雑所得なら配偶者の方がご自身で申告すべきはずなのでその金額はわかるはずですが、見落としがちなのが一時所得。生命保険の満期保険金だとか、契約を解約したことによる解約返戻金。これ、申告してなくても税務署には筒抜けなんですよ。

以上の所得に関して、まず、配偶者の給与収入が150万円以下であることを確認してください。

確認してみて、103万円以下なら「配偶者控除」、103万円以上150万円未満なら「配偶者特別控除」が適用できます。これ、大きいですよ。所得税率の最低税率の5%だとしても、住民税の10%と合わせて、

 

380,000  × (5%+10%) =  57,000 円 

 

57,000円の節税! 

配偶者にちょっと気の利いたアクセサリーをプレゼントできますし、1回の遊興費としては十分な金額。「配偶者」に関する控除なのですから、それぐらいのことをしても罰は当たりませんよ。

 

2. 適用を受ける方ご自身が、所得1,000万円 を超えてませんか?

この「配偶者控除配偶者特別控除」ですが、改正前に関しては、「配偶者特別控除」のみ、所得制限がありました。納税者(適用を受ける人)の所得金額が1,000万円未満の場合のみ、段階的な控除である配偶者控除が受けられる、と。

一律38万円控除である配偶者控除に関しては、納税者の所得制限はなかったのです。

「納税者」とは、配偶者控除の適用を受ける人のこと。つまり38万円控除される人のことです。いうなれば所得税法における主人公のことです。

これが改正により厳しくなりました。配偶者控除も、配偶者特別控除と同様、「納税者の合計所得金額 1,000万円未満」の場合のみ適用可、となったのです。

なので、いくら配偶者の収入金額が低くても、納税者の収入金額が多かったらダメ。具体的には、給与収入だったら1,220万円以上だったら、配偶者控除は受けられません。

これ、意外と見落としてる方いらっしゃるのではないでしょうか。

ずいぶんと露骨な富裕層への増税です。「法人にやさしく、個人(の給与所得者)に厳しく」が最近の税法のトレンド。これに忠実な内容です。

 

3.130万円、超えてない?

さて、無事、上記1と2をクリアされた方、おめでとうございます。少なくとも57,000円は節税できました。カタカナで表現するなら、家計の57,000円のキャッシュ・アウトフローを防ぐことができました。

ただ、その配偶者の方、もしかして「収入金額」が130万円を超えていませんか? 「所得金額」ではありませんよ、「収入金額」です。もっとも、「所得金額」だったらそもそも配偶者特別控除も適用できませんが。 

社会保険について、配偶者の方、これまでは納税者の方に扶養されていたんですね。だから健康保険料・年金保険料を払っていない、と。

ただ、もしも収入金額が130万円を超えてしまった場合は、これからは健康保険などの社会保険もご自身で加入しなければならなくなります……。将来もらえる(であろう、多分)年金の額は増えますが、いまの支出は増えることになります。世帯で考えてみて、配偶者特別控除のメリットと、社会保険加入のメリットを比較秤量してみてください。

  

4.配偶者控除の壁は、103万円のまま。

では最後にさらに細かい話を。

今回の改正により、配偶者に関して38万円の控除金額が適用される「壁」が、103万円から201万円に拡大されました。このとき、その配偶者が老人控除対象配偶者だった場合、つまり、48万円控除の場合です。

結論から言うと、配偶者「特別」控除を受けている場合は38万円となります。

具体的に細かく説明すると、納税者の合計所得金額が1,000万円未満、配偶者の所得金額が103万円超201万円未満のときは、配偶者に関して控除できる金額は38万円です。48万円ではありません。

70歳以上の老人控除対象配偶者、という考えがあるのは「配偶者控除」だけなのです。

ややこしいなあ。 

 

5.間違えていた場合は…

ふう。以上で一応の説明は終わりました。

え? じゃあ、この適用関係を間違えていたらどうなるのかって? 

年末調整で間違っていた場合は、税務署から、会社宛に「扶養控除等の見直し」の是正手続きの勧告案内が送られてきます。

この通知、その配偶者の収入が給与や解約返戻金があるなどの場合は、少なくともこれまでは必ず送られてきました。配偶者や扶養親族の所得、当局で把握している金額と違いますよ、と。

なんでこんな正確にわかるの? と、一瞬、課税当局が恐ろしくなる瞬間ですが、タネをばらすと簡単なことで、給与を支払った会社は年末調整の結果を各市町村に伝えているからです。この情報(=給与支払報告書)にアクセスして対象となっている配偶者、扶養親族の所得金額が照会され、納税者の申告内容と異なる場合はすぐにこの是正勧告が送られます。おそるべし、課税当局。

ただ、このシステムがH30 からの配偶者控除配偶者特別控除の改正に伴ってどこまで徹底されるかはわかりません。なにしろ、今年は上述の通り、あまりにもこの制度が煩雑になりましたので。当局のチェックのシステムがどこまで従来通り機能するか、そして、はたしてどこまで細かく指摘するつもりなのかわからないからです………と、いいたいところですが、やっぱり、きちっとチェックしてくれるのでしょうね。だって、当局はそれが仕事だから。

 

以上、H30年分の確定申告で留意すべき点の3つ目、配偶者控除配偶者特別控除の話でした。きめ細やかな改正、といえば聞こえはいいですが、「煩雑」という言葉がピッタリなほど、細かなところまで影響が及ぶ改正です。 

これから確定申告される方はもちろん、すでに申告書を出された方や、年末調整で済んだ(と思われている)方も、もう一度だけ、配偶者控除の関係を見直してください。

今日ならまだ間に合いますよ。