漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

遺言内容と異なる遺産分割の際の遺言執行者の関与について(『近畿税理士会』 第653号 平成30年9/10)

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 業界紙『近畿税理士会』の記事です。

 実務では想定外のことが起こるのは日常茶飯事ですが、特に相続案件は何が起こるかわかりません。民法家族法に関しては弁護士の先生から話をうかがうのが最も信頼でき、速い解決法です。

 「遺言内容と異なる遺産分割の際の遺言執行者の関与について」。これも起こりうる事態です。

 備忘のために引いておきます。

 

第96回 弁護士会との事例研究会
遺言内容と異なる遺産分割の際の遺言執行者の関与について
 7月9日、大阪弁護士会館において、第96回弁護士会との事例研究会が開催された。税理士会からの質問を弁護士会が回答した事例を紹介する。

(質問1)
 遺言書に、遺言内容と異なる遺産の取得は一切認めない旨が記載されています。この場合でも、遺贈を無視して新たに遺産分割協議により遺産を取得することは可能でしょうか。
(回答1)
 遺言書に遺言内容と異なる遺産の取得を禁止する旨の条項(以下、便宜上「異分割禁止条項」という。)が設けられた場合、当該禁止条項の法的性質は、遺産分割方法の指定(民法第908条)と解される。通常、遺言者がこのような条項を設ける趣旨は、共同相続人間において遺言者が定めた遺産分割の方法に反する遺産分割協議を許さず、遺言執行者に遺言者が股定した遺産分割の方法に従った遺産分割の実行を委ねたと解される。そして、このような遺言に遺言執行者が指定されている場合、共同相続人が遺言と異なる遺産分割を行うことは民法第1013条に規定する「相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為」に当たるものとして認められないことになる。
 ただし、共回相続人に遺贈する旨の記載がある場合は、例外として ①共同相続人全員と遺言執行者が同意している場合 ②遺言に従って相続した上で、共同相続人間で贈与や交換的に譲渡する旨の合意したと認められる場合 ③受贈者が遺贈を放棄し、当該財産を遺産分割の対象財産に復帰させたと認められる場合には、遺言と異なる遺産分割協議を行うことも認められると解されている。
 共同相続人以外が受贈者として指定されている場合は、受遺者の承諾なく、遺言書と異なる遺産分割協議を行うことは、異分割禁止条項及び民法1013条に反するため認められない。

 

 (質問2)
 質問1の場合において、遺言執行者として注意すべき点はありますか。
 (回答2)
 遺言執行者と共同相続人とが、遺言と異なる遺産分割協議を行うことを合意した場合でも、当該合意によって遺言執行者の責務を免除する性格や効力まで有するものではないとされている。共同相続人が遺言と異なる遺産分割を行う際に、遺言執行者が当該協議を主導し共同相続人に損害川生じた場合には、損害賠償責任を負う可能性があるので留意すべきである。

(質問3)
 「相続させる」という表現による遺言の場合でも、一旦.相続により取得した権利を他の相続人と交換したと捉えれぱ、遺言内容と異なる遺産分割は可能でしょうか。
(回答3)
 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は ①登記手続を簡便にする目的 ②遺産分割協議を不要とする目的 ③登録免許税を節税する目的(現在は相続も遺贈も税率は同じ。)から公証実務によって編み出された遺言である。
 いわゆる香川判決(最判平成3年4月19日)において、この遺言の法的性質は、遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺産分割方法の指定であり、特段の事情がない限り、何らの行為をも要せず、被相続人死亡時に直ちに当該資産が当該相統人に相続により承継されるものとされた。
 「相続させる」旨の遺言を作成する場合、遺言者の通常の意思は、相続をめぐる相続人間に無用な紛争が生ずることを避けることにある。共同相続人全員が合意できるのであれば、無用な紛争を避けられるため、遺言の内容と異なる遺産分割協議を行うことも可能と解される。

 

(質問4)
 「相続させる」旨の遺言と遺言執行者の関与について教えてください。
(回答4)
 「相続させる」旨の遺言は、当該遺言の効力が生じた時点において権利移転の効果が生じる。上記判決を前提とする限り、受益相続人は登記手続を単独で行うことができることから、遺言執行者は遺言執行事務として登記于続を行う義務を負わない。
 これに対して、「相続させる」旨の遺言が存在するにもかかわらず、受益相続人以外のものが自己名義に所有権移転登記手続を行っている場合には、遺言内容の実現が阻害されていることから、所有権移転登記手続の抹消を求めるために、遺言執行者が就職して対応することになる。
(調査研究部・岩本武士) 

 

民法を勉強するたびに、自分の未熟さを痛感します。不案内な分野については、ちょびちょび細かい知識を学ぶだけでは、実務上、なかなか役に立つレベルまでは詳しくなることはできません。一時期、集中して、その分野のことだけ考えて体系的・網羅的に学ぶ必要があります。どこまで身についたのかはわかりませんが、会社法に関しては一度そのような「修行」をしたことがあります。そろそろ、民法に関してもそのような「修行」をすべき時期にきているのかもしれません。

 

遺言執行者の実務

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