先日、朝日新聞のこの記事について、思うところがあったので1つ記事を書きました。
今日はその続きです。
■富裕層への増税、経済滞る
冨田和成さん 金融情報メディア運営・ZUU社長
野村証券で富裕層の方々の資産運用を担当する「プライベートバンカー」として働いていました。現在は起業して資産運用に関する情報発信をしています。仕事を通じて税の重さを感じる機会はとても多く、会社が成長してからは、自分自身が支払う税の重さも身に染みています。
世界的に見て、日本は富裕層に厳しい国だと思います。消費税のように注目されませんが、たとえば2015年には相続税が5%引き上げられ最大55%になりました。OECD(経済協力開発機構)で最高レベルです。相続税を支払えずに泣く泣く事業を廃業したり、支払いのために先祖代々の土地を手放したりということがたびたび起きています。富裕層が税金対策をするのは、こうした事業や土地を守るためでもあるのです。
税金対策にはさまざまな方法がありますが、たとえば寄付です。慈善活動の財団を作り、個人資産を寄贈するのです。寄付は非課税なので寄贈に税金はかかりません。社会貢献をすることで、社会的な評価が高まるという効果もあります。納税の目的が国を繁栄させることだとしたら、寄付は国を繁栄させるもう一つの方法だとも考えられます。
15年に出国税が導入されて一時より減りましたが、シンガポールなど税率が低い国に資産とともに移住する方もいます。ただ、移住した方の中には、孤独に苦しんだり、健康を損ねたり、お金以外の見えないコストを支払っている方もいます。これは富裕層なりの苦労なのでしょう。
一方で、日本の税制で富裕層が優遇されている面もあります。所得税は最大45%ですが、株の配当など金融所得は一律20%に抑えられています。また、富裕層の多くは経営者なので、個人の税負担が重くても近年の法人減税で負担はある程度相殺されます。
では富裕層や企業がもっと税金を払うべきなのか。「富める者が持たざる者を助けるのは当然だ」という意見もあるでしょう。しかし税金があまり高くなると、金融取引や経済活動をするデメリットが大きくなり、お金が循環しなくなってしまう側面もあります。むしろ今ある税金でどう世の中の生活水準を底上げするか、つまり税金を活用したリターンの最大化に、もっと注目してもいいと思います。
私が育った家は豊かではなく大学の学費が免除されるほどの年収でしたが、幸せでした。がんばれば誰でも逆転できる世の中だと感じますし、自分もそういう世界を作りたいと考え仕事をしています。もし必要ならもっと納税することはいといません。けれども企業は、利益のためだけでなく雇用や事業を通じて世の中をよくしたいと活動しているものだし、私もそのために尽くしたいと思っています。(聞き手・高重治香)
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とみたかずまさ 1982年生まれ。「ZUU online」は月間400万人が訪問。著書に「大富豪が実践しているお金の哲学」ほか。
ポジショントーク全開。
でも、「朝日」というメディア媒体を考慮して、いろいろと気を使った跡がうかがえます。苦労されてますね。それでも「富裕層ありき」な論旨は隠せませんが。
それは、端的に相続税の増税の説明にあらわれています。この増税を説明するのに、一般的には納税義務者の「裾野」が広がったことを強調するのですが、冨田氏は最高税率を強調。これが問題となるような顧客がメインなのでしょう。
このポジショントークはツッコミどころ満載ですが、そもそもこの特集の構成自体がブレブレなので、スルーいたします。ただ、1点だけ言わずもがなですが、ここで冨田氏が言及されている「出国税」ですが、こんな税目はありませんよ。いわゆる富裕層にかかる、所得税・相続税・贈与税などのいわゆる資産税に関する「国外転出時課税制度」のことだと思います。
当時から「出国税」という名前で紹介されており、専門用語というよりは俗称として通用していましたので、この言葉を使われたのでしょう。紙面も限られていますしね。ただ、2019年現在で「出国税」というと、「国際観光旅客税」のことでして、「なんで富裕層がそんなに1,000円の出費を気にするんだ?」と思われる方もいるかと思い、あえて解説いたしました。
「出国税」という言葉のこの2つの意味については、この記事が参考になります。うん、まったく性質の異なる2つの税を包含してるんですよね、このことば。
そして先日の記事でも触れたことですが、冨田和成氏、消費税についてはまったく言及されてません。というか、この特集のテーマである消費税は、富裕層に優しい「逆進性」がその特徴であるのに、「世界的に見て、日本は富裕層に厳しい国だと思います。」なんて言っちゃってます。これ、慎結さんの意見の後に置かれていることを考えると、冨田氏が「日本は富裕層に厳しいから、消費税くらいの逆進性は問題ない」と考えているように読めちゃいますよ。
で、いよいよ敬愛する諸富先生のコメントなのですが…今日は長くなりましたので、また次回に。
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