漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

「租税回避を認定し、これを否認する「打ち出の小槌」はない」(村井正先生)(『近畿税理士会』 第653号 平成30年9/10)

前回に引き続き、『近畿税理士会』記事から。実施された税理士研修(村井正先生講義)の報告記事です。

 

法学ゼミナール①

租税回避を認定し、これを否認する「打ち出の小槌」はない
角を矯(め)て牛を殺す (関西大学名誉教授 村井正)

 

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 7月24日、近畿税理士会館において法学ゼミナールが関西大学名誉教授の村井正氏を講師として開催された。
 講師によると、金子宏著『租税法 第22版』は租税回避を①課税要件外し②濫用的特典充たし(=特典濫用・租税減免規定の濫用)の2類型に分けているとのことだ。前者はドイツ法のAO42条の条文にほぼ近く、後者は英2013年財政法207条の条文に近いと推測されていた。また、後者について、2017年OECDモデル条約29条9項にあるPPT条項の解説があった。これは包括的否認規定であるが、二国間条約モデルのため、国内租税法に効力までは及ばないと講師は主張された。
 租税回避の全体像を話されたあと、②濫用的特典充たしの事例分析について解説された。いくつか判例を紹介されたが、ここではヤフー事件について記述したい。当該事件は、適格合併に伴う繰越欠損金の引継ぎにより租税特典を受けた事案である。課税当局は、主たる目的が租税回避であると認められるときは、租税減免等に係る規定ないし制度の濫用があったとみて、否認れるべきと主張している。講師によれば、法人税法132条の2は組織再編成に係る行為計算否認規定であるが、繰越欠損金の引継ぎの特典取得の濫用があれば、同条で不当と認定し、これを否認すると明示されるべきとのことだ。また、同条と英2013年財政法207条とは異なるものだと講師は主張し、もし同じであるならば同条が財政法207条のような規定のよう制定すべきであるとのことだ。なお、同条の立法事情や背景について、政府税制調査会等の議論は見当たらないそうだ。
 最後に、信託法と税法について言及された。信託法改正時に税法を知る者が参画していれば、もっと使いやすいものになったはずで、現状では角を矯めて牛を殺す」である。それはどの法律も同じことだろうと研修を締めくくられた。租税法を体系的に聞くことができ、有意義な時間であった。
(取材・原史明)

 この研修、スケジュールが合わず、わたしはビデオ研修で受講しましたが、非常に勉強になりました。この研修のレジュメは、今後も参照していくと思います。

さて、この研修でわたしが興味深く感じたのは、本引用記事でも最後に触れられている、信託法と税法のところ。信託、特に家族信託は相続分野で現在最新の研究が進み、実務的にも現在進行中で法整備が進んでいる分野。しかし、確かに税法的にはどうなることやらまったくわからない、手探り状態です。

村井先生も現状を危惧されていることを知り、少し安心しました。

 

租税法と取引法 (比較法研究センター研究叢書 (第8号))

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入門国際租税法

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