漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

「仕組みの議論 世界全体で」(諸富徹、1/25朝日新聞「耕論」(3)

少し間が空きました。

税の公平性についての朝日新聞の1/25「耕論」記事の最後です。

 

 

3人めは、わたしが敬愛する諸富徹先生。

仕組みの議論、世界全体で 

諸富徹さん(京都大学大学院教授)

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 先進国の税制は1980年代以降、経済のグローバル化で国同士の成長競争が激しくなった影響で、法人税や富裕者への所得税が引き下げられ、一方で社会保障や公共事業などへの財源も確保しなければならず、結果として課税の公正さが犠牲になってくる構造変化が起きました。

 法人税や金融所得への課税が下げられ、高所得者ほど高かった累進課税の刻みが平準化されました。かつて所得を税率が低い租税回避地に移して課税逃れするには国籍移動などが必要で面倒でしたが、今は電子的に容易に移すことができるようになりました。

 課税当局は、まるまる逃げられるより、税率を下げてでもいくらかは徴税しようと、税率を下げていったのです。

 しかし外国に逃げない所得や労働には税率や負担を上げていきました。消費税や社会保険料が値上げされたのはこうした動きで、負担の公正性が損なわれていったのです。

 だから、累進の刻みを元に戻して「持てる者」から税を取れという主張に私も心情的には共感しますが、現実には難しいわけです。

 といって、消費税や社会保険料の比率を野放図に上げていくことはできません。所得の低い人、貧しい人も食料など生活必需品を買わねばならない。でも、税率を上げれば収入に占める生活必需品購入費の割合が高くなり、結果として高所得者より税の負担率が大きくなってしまう。逆進性という欠点があるのです。

 税の構造変化の中で、今、考えたいのがグローバルタックスという仕組みです。経済活動が国境を越え、税収が国際的な公共財を供給するための財源になっている、などの特徴がある税の一つです。

 フランスは2006年7月にグローバルタックスの一つである国際連帯税を導入しました。当初、国内の空港から出発する乗客に、欧州域内便なら1ユーロ、域外便なら4ユーロ、ファースト、ビジネス両クラスならそれぞれの10倍を徴税し、国際機関を通じて途上国の感染症対策に充てました。同じような税は、韓国など数カ国で実施しています。

 日本もグローバルタックスを外為取引や国境を越えて商われる金融商品の売買に取り入れ、消費税や社会保険料も負担できない国内の貧困者の支援の財源に充てることを検討してみたらどうでしょう。

 格差社会に苦しむ弱者や子どもたちの救済は、公共的な使命です。無論、様々な困難はありそうです。13年に欧州連合EU)の有志国が金融取引などへの課税を導入しようと大枠では一致しましたが、反対する関係業界から激しいロビーイングを受けて、宙に浮いています。

 しかし税財源が不足し、公正さが損なわれる中、日本を含め世界で議論すべきです。(聞き手 編集委員・駒野剛)

 ここまで読んでやっとわかりました。この特集、消費税関係ありません。「誰でも10%なんて」というタイトルや、「今秋、消費税が上がる。誰でも同じ10%。…」なんてリード文から、秋の消費税増税に関する記事かと思っていました。おーい、それなら「税の公平性について」などの見出しにしてくださいよー。これ、ミスリードですよ。

さて、引いた記事に戻って諸富先生ですが、学者らしく簡潔にして要点をおさえた問題点のまとめ、素晴らしいです。お客様との会話でも、これくらいのことは日常会話・時候の挨拶レベルでサクッとお話できるようにしておきます。

で、この諸富先生のコメントなのですが、あまりにもスムーズな現状分析で、先生ご自身の意見はわかりにくい。しかし、そう見えても最後にご自身の研究内容もちゃっかりアピールされてます。新聞記事では4段目で、国際連帯税やトービン税的なことにも言及。このあたりも隙がありません

 

私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)

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