漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

8,900万円脱税容疑、イベント会社を告発 東京国税局 (朝日新聞 2019年 2/28)

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極めて古典的な脱税の手法です。

 

 

8,900万円脱税容疑、イベント会社を告発 東京国税

 架空の経費を計上して約8,900万円を脱税したとして、イベント会社「N」(東京都千代田区)とA代表(34)が、東京国税局から法人税法違反と消費税法違反の疑いで東京地検に告発されたことがわかった。

 関係者によると、A代表は2017年6月までの2年間で、架空の外注費を計上して約2億800万円の所得を隠し、法人税約5,100万円と消費税約3,800万円を脱税した疑いがある。事業実態のない会社名義の口座に資金を振り込み、あとで現金で引き出していたという。

 同社は18年9月に「I」から社名を変更した。A代表は「深く反省している。修正申告し、一部納税も済ませた」とコメントした。

 

冒頭でも書きましたが、報道の通りだとすると、意図的な脱税方法として極めて古典的な方法と言えるでしょう。もっとも、「事業実態のない会社名義の口座」とあることから、ペーパーカンパニーを利用しているあたりは、単なる領収書レベルの偽造以上の巧妙さはありますが。

 

外注費の架空計上は、経費の水増し計上の中でもタチが悪い。

経費増額による所得減少に加えて、ここから派生するさまざまなキャッシュ・アウトフローの減少が見込めるからです。

まず、その会社が消費税の課税事業者である場合は、法人税に加えて、さらに消費税の減額。消費税の課税事業者は、所得が赤字で法人税のの納税義務がなくても、消費税の納税義務はあります。間接税の辛いところです。

次に、「従業員給与」を「外注費」にした場合は、消費税だけの減額が見込めます。これもよくある脱税の手法。労働集約産業(美容師、IT…会計事務所もそうですが)でありがちな手法です。

この場合、支払われるのが「給与」ではなく、「外注費」であるため、労働者の社会保険料も不要です。したがって、会社負担の社会保険料も支払う必要がなくなります。

さらに、この外注費がある程度の金額(一人あたり 月額で 88,000円以上である場合)には、源泉所得税の未納付の問題もあります。

 

…というわけで、経費のうちで、税務署のチェックが厳しいのが「外注費」。税務署の立場で考えると、実態と異なる処理を発見した場合、一石三鳥のメリットがあるわけです。これは大きい。

その意味で、この案件は、指摘されるべくして指摘されたものといえるでしょう。

詳細や真実はわかりませんが、「見解の相違」ではなく、「脱税容疑」とはっきり書かれていること、「深く反省して、修正申告し」た、とあることから、これはある程度意図的なものだったと推測されます。

逆にそう考えると、意図的・仮装にかかるペナルティが気になるところですが、これについてはこの記事では言及がありません。紙面のスペースを考慮し、耳目を集めるほどの金額ではなかったのかもしれません。

 

以上の理由から、人件費に関する不正行為は割に合いません。というか、そもそも従業員のことを考えたら、やってはいけません。そのことを肝に銘じてください。

 

 

脱税と制裁 増補版 (租税法研究双書)

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