漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

半沢直樹がホモソーシャル? そんなの当たり前じゃないですか。

コロナ禍でだいぶ乱れていたテレビドラマのスケジュールもだいぶ落ち着いてきたようです。 

 あまり大きな声では言えませんが、今クール、楽しみにしていたドラマがあります。

 

 

半沢直樹』です。

特にファンの役者もいないし、原作もそれまで読んだことなかったのですが、なぜか見ちゃうんですよね。わたしの仕事柄身近なテーマなので、お客様との話題にもなりますし。

でも、こういうベストセラーとか人気番組を楽しみにしてます、というのはどうも気恥ずかしくて、あまり好きだとは人に言ってないのですが、なんとなく、それ以外にも、このドラマのことを手放しで好きだと言えないわだかまりのようなものがありました。

それが明確になったのがこのコラム。

愛読している、朝日新聞の島崎今日子さんの定期連載です。

 

半沢世界の女たち

2020年8月5日(水) 朝日新聞

 

 男同士の絆こそ何より大切。このドラマを見ていると、つくづく日本はホモソーシャルな世界だとあきれ果てる。あ、大人気の「半沢直樹」(TBS系)のことです。それは7年前の第1弾放送時に指摘されたことではあったが、第2弾はますますその色合いを強めている。つまり、作ってる側は確信犯だということでしょう。
 ほとんど歌舞伎です。いや、遠山の金さんです。半沢直樹である堺雅人の周りに名だたる歌舞伎俳優、劇団出身の名優、人気者を配し、企業社会を舞台に勧善懲悪を描きにかかる。演出は大仰で、決めぜりふの速射。カメラもアップと俯瞰を駆使して、「男たちの激烈な競争」を見せつける。俳優たちが楽しみながら演じていて、そのエネルギーは視聴者にも波及していく仕掛けだ。
 それにしても、何という女たちの描かれ方よ井川遥演じる小料理屋の女将は半沢にほほ笑みかけ、部下の今田美桜は尊敬の目で半沢にうなずく。敵役の南野陽子は社長夫人かつ副社長で、「育ち」ゆえの傲岸不遜ぶり。極めつきは、妻の上戸彩。彼女が作ったある日の夕飯は、鰹のたたきに豚角煮、笥、おひたし、冷ややっこ、サラダ、みそ汁。薬味も満載で、専業主婦でもこの品数を並べるのは大変だ。しかも半沢には、及川光博扮する同期というもう一人の妻のごとき親友までいるのだ。
 原作があるとはいえ、産業構造が変わり、ジェンダー意識が高まる今、すべてが作り物めいている。どこかの国のいつかあったお話だとしても、女性を疎外して平気なドラマを楽しむ趣味はない。  (ライター・島崎今日子)

 

いや、おっしゃる通り。

そうか、わたしが前作から抱いていたこの違和感は、安直な勧善懲悪的な物語に対するものというよりは、露骨なホモソーシャルな世界に対するものだったのか、と納得しました。

でもね、島崎さん。

ホモソーシャル」という刺激的な言葉に引きずられそうになりますが、この記事、3つのことを批判してますよね?

「ホモソ批判」「安直な作劇作法・技法」「女性蔑視」。

特に、ホモソ批判と女性蔑視は分けて考えた方がいいのではないでしょうか。

ホモソな世界観の一要素として、女性蔑視があるのは納得できます。

 

そういえば、ホモソーシャルについては、まずこの本から学びました。

 

男たちの絆、アジア映画 ホモソーシャルな欲望

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いや、こういう概念を初めて知ったのは、大島渚のこの映画だったかもしれません。

 正確には、大島渚監督のこの映画の解説をする浅田彰氏の対談だったような。

 

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憂国呆談

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軽い対談だったと思うので、確か田中康夫氏との対談だったと思うのですが、この本だったかはおぼえてません。

大げさなジャポニズムだなあ、という感想しかなかった『御法度』が、悪意ある寓話として迫ってきたことを覚えています(そう考えると、ビートたけしが最後に刀を抜いて桜の木を切るラストシーンは実に象徴的だ)。

その後、パゾリーニの『テオレマ』を観た時、「あれ、これって『御法度』と同じじゃない?」とつぶやいてしまいました。いや、もちろん映画史的にはパゾリーニの方が先だというのはわかってますよ。

 

テオレマ [DVD]

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まあとにかく、『半沢直樹』が「ホモソーシャル」で、視聴者をバカにするレベルの「大げさな演出」で、「女性蔑視」な世界だ、というのは薄々みんな気づいてることですよね。で、それを承知の上でフィクションとして楽しんでいると思うのですが。少なくとも、わたしはそうです。

でも、それを新聞のコラムという限られたスペースできちんと言語化して提示したところが素晴らしいと思います(朝日新聞らしい、といえばらしいところです)。

 

堺雅人さんや歌舞伎俳優勢が決め台詞を言い放つ場面では、わたしは声を上げて笑ってしまいます。「今日もやってるねえ~」という感じで。

いやいや、それよりも賀来賢人がスーツを着て株価がどうこう言っている姿を見るだけで笑ってしまいます。コイツ、翌日は金髪にして出社してくるんじゃないか、とか、いきなりオフィスでコント始めるんじゃないか、とか。

 

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f:id:Auggie:20200809065228j:plain 『今日から俺は!』


f:id:Auggie:20200809065327p:plain  『スーパーサラリーマン左江内氏』

 

前回は、すっかりエロ美しくなった南野陽子が半沢を訪れてくるところで終わりました。

今日もかぶりつきで見ちゃうんだろうなあ。