漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

「制度」という名のコンセプト(北田全基先生)(『近畿税理士会』主潮 第654号 平成30年10/10)

『近畿税理士会』の過去記事から。興味深い記事があったので引いておきます。

 

「制度」という名のコンセプト
 2年前、この主潮欄に「申告納税方式と申告納税制度」と題した寄稿がなされた(杉田宗久・平成28年12月10日第632号)。制度問題を考えるにあたり、重要な標になると思われたので、以下再掲する。同主潮は、申告納税制度を「国民主権の税制での積極的な表明である。」とし、次のように結んでいる。いわく、「申告納税制度とは、国会で決められた租税に関する法令は、国会議員を通じて国民自身が決めたものであるので、それを国民が遵守するのは当然である、このような国家の基本的枠組みまでを射程内においている。だからこそ、申告納税制度は『理念にそって』と表現されるが、申告納税方式の理念にそってとは言わないのである。」と結語する。これには、筆者も同感である。と同時に、「制度」という言菜の意味合いに思いを馳せてしまうのである。なぜ、制度は「理念」を背負うのか。


言葉としての「制度」
 制度という日本語は、今や広く社会に浸透し、家族制度・死刑制度・選挙制度等、日常ごく当たり前に使われている。また、税務の世界においても、上の申告納税制度をはじめ、税理士制度・租税制度等として使われている。いずれの場合も、制度は熟語として登場するため、単語としての「制度」を考える機会は稀有である。今一度、制度という口本語について考えてみたい。さしずめ、国語的な意味合いを知るうえで国語辞典 (岩波書店広辞苑」)を引けば、①制定された法規。国のおきて。②社会的に定められている、しくみやきまり・」とある。さらに、英語表記を知るために和英辞典(研究社「新和英中辞典」)を紐解けば、「system, institution, organization」とある。漠とした制度の意味は理解できたとしても、問題とする理念との関係性は見出しがたいのである。


税務における「制度」
 そこで、「制度」を知る一例として、租税法ないし税法学は申告納税制度のことをどのように説示しているかを見てみたい。代表的な教科書では、申告納税制度を「民主的な租税思想にふさわしいもの」(金子宏著「租税法」弘文堂)とするもの、「民主主義国家における課税制度の理念型」(谷口勢津夫著「税法基本講義」弘文堂)とするもの、「目本国憲法国民主権原理の税法表現」(北野弘久著「税法学原論」青林書院)とするもの等々、杉田主潮同様に、国民主権主義ないしは民主主義に合致するものと捉えていることがわかる。

制度コンセプトの外来性
 ところで、幕末から明治期に多くの外来語から和製漢語が造成されたことは知られている。余話として、奥平康弘は「制度」という日本語に最も近いと思われる欧米語は"institution"という。さらに"institution"はラテン語の"institutum"(制度)に由来し、併せてラテン語の"constitutum"(契約・合意)に由来する欧米語の"constitution"(憲法・国体・組織)と対をなす言葉(接頭語 in- 又は con- を持つstitusion = 打ち立てたもの)であると示唆する(奥平康弘著「憲法の眼」悠々社参照)。思うに、明治初期、旧幕藩体制を廃し、新たな外見的立憲国家を目指した元老たちは、欧米語の"constitution"を「憲法」と訳し、これと対をなす"institution"を「制度」と訳したものであろう。よって、制度と憲法という言葉のコンセプトは、国づくりのための、いわば表裏一体の基礎的概念を持つものといえよう。


制度と理念
 さて、制度コンセプトを筆者は次のように意味づける。制度が背負う理念とは、その時代、その国が持つ国家の基本原則に通底する。わが国憲法の基本原則は国民主権基本的人権の尊重、平和主義である。つまるところ、申告納税制度並びにこれを担保する「税理士制度」が担う理念とは、広義には日本国憲法の基本原則であり、狭義には憲法30条の「法律の定めによる納税の義務」といえまいか。思うに、同30条はわが国憲法特有の権利表現と解されるからである。
 とかくイデオロギー的に考えられがちな制度問題を、歴史的かつ国法学的な観点からも俯瞰すべきと思慮するところである。        (北田全基)

 申告納税制度について、「制度 = institution」、「institution / constitution」という語源に着目した指摘がされています。このような語源にさかのぼって考える姿勢、そのことについて基本から考える際にわたしもよくやります。語源を考えると、そもそもの成立の由来とか、根本的な思想が明らかになる場合も多く、有用な場合が多いです(そして、その分析の過程で明らかになる歴史的・政治的な思想史こそが重要なのだ、と喝破したのはニーチェフーコーでした)。

これからの確定申告の時期には、納税者の皆さんとお話をする機会が多くなります。そのとき、簡単にでもこのような原理をお伝えすると、話がスムーズに進むことがあります。その意味で、備忘としてこの記事を引かせていただきました。勉強になりました。ありがとうございます。杉田先生への返信として続けられたこの記事、この北田先生の記事に続く投稿はあるのでしょうか。

以下、引用記事に挙げられた参考文献です。

 

租税法〈第22版〉 (法律学講座双書)

租税法〈第22版〉 (法律学講座双書)

 
税法基本講義 第6版

税法基本講義 第6版

 
税法学原論 第7版

税法学原論 第7版

 
憲法の眼

憲法の眼

 
広辞苑 第七版(普通版)

広辞苑 第七版(普通版)

 
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