漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

「税理士が知っておくべき最近の租税裁判例」(青山学院大学学長 三木義一先生、『近畿税理士会』第654号 平成30年10/10)

三木義一先生による税理士全国研修のまとめ記事。『近畿税理士会』第654号(平成30年10/10)からです。

この研修、生で聴きたかったのですが、この時期は法人設立などで本当にバタバタしておりまして会場に足を運べませんでした。その後、ビデオ研修を受けましたが、予想通り、興味深い内容でした。新聞記事を引いておきます。

 

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全国統一研修会② 

税理士が知っておくべき最近の租税裁判例
最近の裁判の動向を知る研修会

青山学院大学学長 三木義一氏)


 8月9日から8月27日にかけて、全3会場において青山学院大学の学長である三木義一氏を講師としてお招きし「税理士が知っておくべき最近の租税裁判例」と題した研研修会が開催された。
 実務において税務上の判断をするとき、裁判所が最近どのような判断をしたのか、その動向を知ることは我々税理士にとって、大変重要である。
 最初に、役員退職給与の相当額を算定する際に用いられる功績倍率の在り方について。地裁では、平均功績倍率3.26を超える部分の退職金を不相当に高額な部分の金額とするのは、あまりにも硬直的な考え方であるとし、納税者の請求の一部を認めた。平均功績倍率は、あくまで同業類似法人間に通常存在する諸要素の差異やその個々の特殊性を捨象して平準化した平均的な値であるにすぎないとし、平均功績倍率法によって算定された数値の1.5倍までは原則的に功績倍率として相当と認める判決をしたのである。
 講師がレジュメを作成したときは、ここまでだったのであるが、その後の高裁で判決がひっくり返った。平均功績倍率を算定する際に、特殊事情は既に考慮された上で平均となっているとし、課税庁の主張を認めた判決になったのである。納税者の主張を認めてもらうには、平均では測れない会社や退職した役員の特殊事情を裁判で説明する必要があろうということであった。
 次に、従業員への豪華な感謝の集いについて。本件判決は、専ら従業員の慰労ための行事に係る費用について、社会通念上福利厚生費として一般的に行われている範囲を超えている場合には交際費にあたり、損金算入が否定されていると解するのが相当であるとした上で、本件に関しては通常要する費用の判断基準を支出の目的に求め交際費にあたらないとした。
 この感謝の集いは、代表者が就任2年目で累積赤字を解消し無借金経営となったことにより、会社創立40周年の記念に、全従業員等に慰労目的でリゾートホテルのコース料堤を提供し、プロの歌手や演奏家によるコンサートを開催したものである。裁判では、この行事は、従業員にとってある程度の非日常性を有する場所への移動の要素を含み、また、特別のコース料理やコンサートを楽しむといった非日常的な内容を含むものであり、日帰り慰安旅行であったとした。その上で、日帰り旅行の費用と比軟すると本イベントの費用は通常要する程度であるというべきものとし、交際費に該当しないと判断されたのである。
 通常要する費用の判断基準を支出の目的に求め、具体的な諸要素を総合して判断するのが相当であるとした点に、この判決の意義があり、今後、同種事案の判決に影響する可能性がある。
 研修では、裁判事例だけではなく、最近の税制間題のうち、大学の無償化やAIと格差とベーシックインカム等についても講師の意見をを交えて説明がなされ、最後に、税理士である会員には、日本の税制と財政について、もっと意見してほしいというエールを頂戴し、研修は終了した。 

   (取材・西村智子)

租税法の著作でいうと、三木義一先生は、金子宏先生、佐藤英明先生に次いで愛読しております。「税理士である会員には、日本の税制と財政について、もっと意見してほしい」というところ、興味深く受け止めました。

確かに、税に関する居酒屋談義的な立法論(「税法が間違っている!」「金持ちから税をとれ!」的な)はメディア、インターネット空間でよく耳にしますが、そんな中でも、税理士が税制・財政に関して、自分の意見を表明していることは少ないかもしれません。どちらかというと、現税制の解説屋、節税屋として小さくまとまっている場合が多いような。

これは、多くの税理士が、税制には詳しいが、マクロな財政面や思想的な意味には明るくないため、良識ある税理士ならば立法論について建設的な意見を提出できないことを自覚して自説を述べることを控えているためだと思います。

三木先生に与えられた課題だと考えます。そうか、税理士も日本の税制と財政について、もっと意見していいんですね。

 

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