漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

「宝塚スターの母を告発 4,900万円脱税容疑」事件記事から考えられること。

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税理士記事です。

今回は「脱税容疑」記事。

かなりきつい表現です。

 

 

元宝塚トップH.K.さんの母、4,900万円脱税容疑
朝日新聞 2019年2月19日

 元宝塚星組トップスターH.K.さんの母親が、約4,900万円を脱税したとして、東京国税局から所得税法違反容疑で千葉地検に告発されたことがわかった。運営していたHさんのファンクラブの収益について、所得申告していなかったという。

 告発されたのは、Hさんの母で、ファンクラブを運営する会社のY.H.代表(67)=千葉県松戸市。関係者によると、ファンクラブの運営で、DVDや写真集の売り上げのほか、食事会などのイベントを開催して収益があったのに、2016年に約1億2,100万円の所得を申告せず、脱税した疑いがある。

 Y代表の弁護士は朝日新聞の取材にコメントを出し、強制調査(査察)後に期限後申告したことを認めたうえで「ファンクラブとしてプールしている資金を申告しなければならないという認識がなかった。税務に無知だった」「(Y代表はHさんに)資金に関する事実関係を知らせず、一切タッチさせていなかった」と答えた。

 弁護士によると、ファンクラブの会員数は約 1,700人。16年6月に株式会社「KAIRIスピリッツ」を設立し、Y代表が代表取締役に就いている。北翔さんは同年11月に宝塚を退団した。(花野雄太)

 

短い記事ですが、実に多くのことが学べる(?)記事です。

といっても、税務や脱税スキームではなく、この分野の報道記事を読む際のリテラシーについて、です。 

 

まず目についたのは、この記事の中で、「売り上げ」「収益」「所得」の3つの語を使い分けていること。これ、単なる表記の揺れや、「同じ表現を避けている」わけではありませんよ。注意深く使い分けていると思われます。

ここでの「売り上げ」は、写真集やDVDの対価とあることから「小売」や「卸売」などの「物品提供」の対価を指していると思われます。そして「収益」は イベントなどの対価なので「役務の提供(サービス)」の対価なのでしょう。

いずれにしても、これらの対価の額から経費を控除した利益の額でないことに少し留意しておきましょう。といっても、決算書、それも部門別の決算書を確認しない限り、それぞれの利益の額なんてわかりませんが。

これらに対して、「所得」は言うまでもなく税額計算上の金額。税金計算上、税率をかける前の利益の金額です。「会計上の利益の金額もわからないのに、なんで税務計算上の金額がわかるの?」というのはもっともな疑問ですが、これは当局からの発表があったのでしょう。

 

次に、肝心の争点。「ファンクラブとしてプールしている資金を申告しなければならないという認識がなかった」という主張は……うーん、少し苦しいような…。

自分でもよく分かっていないときや、話を曖昧にしよう、とするとき、カタカナ語を使いませんか? わたしはそういう傾向があります。

で、この「プール」という言葉、それに近いのではないでしょうか。

確かに、従業員の給与に係る源泉所得税だったり、不動産賃貸に係る預かり敷金などは一時的に預かり、「プール」していると言えますが、ファンクラブの会費を「プール」とは言えないでしょう。だって、そのファンクラブを退会してもその会費は返金されないんですから。 

 

引用文中の下線部はわたしが付したものでして、ここだけネット上の文章です。つまり、紙媒体の本文上は割愛された部分。ここをみると、Y代表、自分で株式会社を設立してるんですよね。だから、上記の「プール」云々がわからないとは考えられないのです。または、少なくともその会計担当者がこのことを理解できないとは思えません。そして、6月にこの会社を設立して、11月に娘さんが宝塚を退団。 …これは、計画的と判断されても仕方ないのではないでしょうか。

 

そう考えると、大きな疑問が浮かびます。今回のY代表が告発されたのは「所得税法違反」。あれ? 法人を設立したんだから、法人税法違反じゃないの? ということです。ここからはわたしの推測ですが、「2016年に約1億2,100万円の所得を申告せず」とあることから、法人設立時になにかアクロバティックなことをされたのではないでしょうか。個人ー法人間の大規模な資産の移転とか。あるいは、もしかしたらそれまでのY代表の申告に問題があったとして、この法人設立にあたって、それが明らかになったとか。

ちなみに、ファンクラブ会員数 1,700人ということですが、これは 税理士法人 水無瀬野がある島本町の町会議員選挙だと、トップ当選する人数で、隣の高槻市だと当選に700票くらい足りない人数です。

 

以上、短い記事ながら、行間を読むことでいろいろ考えることのできた記事でした。やはり「法人成り」するときは慎重にやらなければいけません。

あと、今回記事から、このような所得漏れ/脱税記事に関しては、実名でなく、イニシャルで記すことにしました。これは、わたしが意図するのは具体的な名前を知らせることではなく、その脱税? スキームを知り、また、それがどう伝えられているか、ということなので、実名は問題ではないのです。

ただ、実名を知りたいと思われる方もいらっしゃるでしょうから、リンク先はあげておきます。リンクが切れていてオリジナル情報にアクセスできず、しかしどうしても具体的な情報を教えてほしい、という方は、メールをいただければお教えします。

以上、ファンクラブ会費脱税事件でした。

 

 

宝塚スターカレンダー 2019 ([カレンダー])

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宝塚ファンの社会学―スターは劇場の外で作られる (青弓社ライブラリー)

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脱税と制裁 増補版 (租税法研究双書)

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