以前、このブログで「税理士業界、今年一番のビッグニュース」としてお伝えした、国税庁による節税保険の規制。
これは「事件」といっていいほどのニュースでした。
「駆け込み営業」と「駆け込み需要」で、確定申告業務の忙しさが倍増。この確定申告期間に合わせたわけではなく、年度末に狙いを定めた発表だと思いますが、結果的に大変なことになりました~。
その後の動向です。
「節税保険」沈静化するか 国税庁が新課税ルール
(朝日新聞、2019年4月12日)
税金を抑えられるとして企業経営者らに人気だった「節税保険」について、国税庁が新たな課税ルールを示した。多くの商品で保険料の全額が課税対象外となる現状を改め、6~8割ほどを課税対象とする方針。ブームになっていた「節税」が売りの保険の開発競争は沈静化しそうだ。
新たな税務上の扱いを定めたルール案を生命保険各社に伝えた。今後契約する保険に適用され、過去の契約分の扱いは見直さない。国税庁は新ルールをつくる方針を2月に示しており、大半の生保はすでに節税保険の販売をやめている。
節税保険は、経営者の死亡に備え、会社が保険料を払う定期保険。高額な保険料を全額経費扱い(損金算入)にでき、利益を圧縮して課税対象額を抑えられる。さらに、保険を中途解約すると保険料の多くが返戻金となって手元に戻るとして、生保各社が「節税」効果を強調して売ってきた。
新ルールは、支払った保険料に対する返戻金の割合(返戻率)に応じてわけた。例えば、節税保険でもっとも多い返戻率70~85%の保険は、損金算入できるのは保険料の4割のみとし、残る6割を課税対象に。返戻率85%超の保険だと、払った保険料の8割以上が課税対象になる場合も生まれ、「節税」の利点は大きく落ちそうだ。国税庁は新ルールを、一般から意見を募って最終的に決める。
節税保険は、日本生命保険が2017年に発売した「プラチナフェニックス」のヒットを機に、1兆円規模の市場に広がっていた。(新宅あゆみ、柴田秀並)
まだまだ途中経過の段階で何とも言えないところですが、業界(会計事務所)に身を置く人間として一言コメントするなら、まあ、予想通りかな、と。
「大半の生保はすでに節税保険の販売をやめている」とはその通りで、発表から1~2週間くらいで「プラチナフェニックス」系の保険の販売は終わりました。まあ、そうなりますよね。金額が大きくなりがちな商品なので、リスクは背負えませんよ。「プラチナフェニックス」系の商品が無くなるのは予想通り。驚くことではありません。
問題は、これまであった「逓増定期」保険への影響なのです。
ある意味、「プラチナフェニックス系」の保険が異常だったのであり、この商品の開発による活況は短期間的なバブルだったといえるでしょう。
従来は、中小企業では会計事務所と相談の上、主に「逓増定期」保険を利用してタックスプランニングするのが主流でした。この「逓増定期」は「ハーフタックス」、つまり支払金額の半分が損金算入(≒ 費用計上)できるものが多かった気がします(このあたりは生命保険の)。
問題となるのは、この従来の節税プランまで今回の規制は及ぶのか? ということなのです。なので、この記事の注目すべきなのは最後のところ。
新ルール案は、支払った保険料に対する返戻金の割合(返戻率)に応じてわけた。例えば、節税保険でもっとも多い返戻率70~85%の保険は、損金算入できるのは保険料の4割のみとし、残る6割を課税対象に。返戻率85%超の保険だと、払った保険料の8割以上が課税対象になる場合も生まれ、「節税」の利点は大きく落ちそうだ。国税庁は新ルールを、一般から意見を募って最終的に決める。
ここ、「節税保険でもっとも多い返戻率70~85%の保険は、損金算入できるのは保険料の4割のみとし、残る6割を課税対象に」に注目。つまり、「ハーフタックス」じゃなくて「60%タックス」とするつもりだよ、ということです!
わたしは、この記事が節税保険という言葉について、「 」の有無を使い分けていることの意味を考えました。というのも、引いた記事をじっくり読み直すとわかりますが、「プラチナフェニックス」系は「節税保険」、従来のものを含む広義の意味では 「」なしの節税保険、と使い分けているのです。
とすると、この「60%タックス」とするよ、というのは、「プラチナフェニックス系」だけではなく、従来の「逓増定期」もあてはまる、という意味なのでしょうか……う~む、だとすると、節税面からは、10%ですがマイナスな改正ですね。まだ決定ではなく、新ルール案を公表しただけですが、方向としてはそういうことなのでしょう。厳しい方向です。
いずれにしても、今後の動向を見ていくしかありません。「一般から意見を募って最終的に決める」とあるように、未確定な部分もあるのでしょう。行き過ぎた「「プラチナフェニックス」系の保険に釘を刺す、というところが大きかったと思います。いずれにしても、わたしは Reflexion は働けば働くほどよい、と考えているので、一連の今回の騒動は業界全体にとってプラスになると思います。
最後に、ひとつだけ留意すべきことを。
今回引いた記事で言及されている節税保険、その種類はたくさんあるんですよ。
わたしが危惧するのは、今回の騒動以降、節税保険と聞くと、問題となった「プラチナフェニックス」系と考える方が多くなるのではないか、ということです。
その影響で、特に問題がなかったハーフタックスプランが「60%タックス」になり、売上も少なくなる。……誰のせいだ! そのエクスキューズが、最後の1文かと。
節税保険は、日本生命保険が2017年に発売した「プラチナフェニックス」のヒットを機に、1兆円規模の市場に広がっていた。
そうか、日生か! 日生が悪いのか! ……という方向に持っていきたいのかな、と感じました。
もちろんこれには日本生命の側からの意見もあるでしょう。「確かに先鞭をつけたのは日生だが、あくまで日生は合法的、当局との合意の上での商品展開である。問題となったのは追随した他社、特に外資系の生保会社でして…」とは、当社の提携する担当者の言葉であり、また別の生保の担当者は、「金融庁が是としたことを、国税庁が覆する権限があるのか」とも熱弁していました。
一税理士にはその判断はできませんが、今回の件、多方面に影響を及ぼすこととなるのは間違いありません。
法人契約による生命保険を使った節税について、わたしの意見は以前にこのブログでも書きました。
それぞれの立場から、妥協できる改正となることを願います。
【補足】
この記事のアップ後に、こんなブログ記事を見つけました。
選挙結果を踏まえた政治的背景やメディアの報道による影響、そしてこれらの結果としての国税庁の動向を忖度した、4/11時点での現状の分析として読むとおもしろい記事です。参考までに。
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