今回の記事は「税理士界」から。
「税理士界」は、日本税理士会連合会が発行している税理士の業界紙です。専門知識や業界の動向、随筆や日常報告など、内容も多彩で、税理士の先生方による投稿が多いのも特色といえるでしょう。
11月15日発行の第1370号から、喜ばしい記事を2つほど。
金子宏教授が文化勲章受章 租税法学で貢献
政府は10月26日、2018年度の文化勲章を、金子宏東京大学名誉教授ほか4氏に送ることを発表した。金子氏は、課税要件の理論的解明という課題に初めて取り組み、租税法学の基礎を築いた。日税連では、昭和53年から税制審議会特別委員を、昭和62年から同会長を務めている。
え!? まだ受章されてなかったんですか? というのが、この知らせを耳にしたときのわたしの率直な感想です。調べてみると、2012年に文化功労者とされていたようですが、文化勲章は受章されていなかったんですね。
弘文堂の『租税法』は言うに及ばず、金子先生の著作はどれも明晰。租税法は難解である、とはよくいわれることですが、先生の著作はそんなことはありません。複雑な仕組みも明解であり、問題点も認識できます。
理論的な功績については、当然のことながらわたしがどうこう言えるものではありませんが、以前追いかけていたテーマについて論文を渉猟していたとき、「包括的所得概念」については、みな金子先生の論文を引かれていることに気が付きました。特に、税務大学校の論文は、金子先生の論文のテニヲハや言い回しを変えただけのものが目に付きまして……と、これは余計なことかもしれませんね。
どれか1冊、ということなら、やはり弘文堂の『租税法』になるのでしょうが、これは金子先生の著作、というよりは税務に携わるものの教科書、基本書のようなものなので、代表作というのは少し違うかと。そのような性質の本なので、この本は版が改まるたびに買い直さなければいけない、と教えられましたが…申し訳ありません、第20版以降買い直しておりません。最新版の第22版を買い直します。
個人的に、もっとも興味深く読んだのは次の2冊。
金子先生の熱い意欲が伝わってくる著作で、文字通り興奮しながら読んだ覚えがあります。―そうそう、こういう本が読みたかったんだよ! この世界に入ったとき、この本を紹介してもらえていたら、余計な回り道をしなかったかもしれません。
毎年の税制改正の追跡や、単なる節税指南以上の、理論的根拠を考えたい人にオススメしたい内容です。
租税法理論の形成と解明 上巻 (租税法理論の形成と解明 全2巻)
- 作者: 金子宏
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2010/11/20
- メディア: 単行本
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残念ながら上巻はamazonでは入手不可ですか。1万円以上する本ですが、この業界で食べていくのなら、一度読んでおいて絶対に損はない本です。大きい公共図書館や、法学部がある大学の図書館には必ず所蔵されている(されているべき)本なので、その気になればアクセスすることは容易だと思います。
そして、金子先生のもうひとつの大きな業績は「租税法」という分野を確立し、優秀な研究者を育てたことです。わたしが敬愛する佐藤英明先生も金子先生門下生です。金子先生がいらっしゃらなかったら、『プレップ租税法』も『スタンダード所得税法』も読むことはなかったでしょう。
さて、この記事を書き始める前は、同紙同号の「源流」コラム、「税理士が政策担当秘書の有資格者に」についても触れようと考えていたのですが、金子先生のことを思い出したらそれどころではなくなってしまいました。
金子先生は1930年に誕生されたので、88歳の受章。11月13日の誕生月と合わせて喜ばしいことです。本当におめでとうございます。
それにしてもこの記事、ずいぶんそっけないような…。