漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

「戦時中」なら富裕層に増税を

なるほど、そういう考えもありますか。

目の前の諸手続きに忙殺されていましたが、いまの状況は、そういうことを考えるのにいい機会でもあるわけだ。

 

「戦時中」なら富裕層に増税

朝日新聞 5/30「多事奏論」 編集委員・近藤康太郎)

「コータロくんは優しかのう。わざと外しおっとやろ?」

 猟の師匠に嫌味を言われる。よく弾を外す、わたしはど下手な猟師である。しかし、わたしの猟果はいつも豊かだ。師匠との共猟だからである。共猟は、山分けだ。

 猟にはまった理由の一つが、これだ。わたしがおとりになるから、隠れて待つ師匠の方へけものは逃げる。射止めたけものを捜すのは大仕事だ。私はイバラに刺され枝に突かれ、血まみれで偏執的に捜す“猟犬”でもある。山分けは断じてお情けではない。フェアなのだ。
 だから狩猟社会とは、格差が生まれにくい社会だった。人類が農耕を発明し、備蓄する余裕ができてから、権力が生まれ、階級が生まれ、国家が生まれた。

 その国家がいま、世界で戦争中なのだそうだ。コロナウイルスとの戦争だ。米トランプ大統領は「自分は戦時大統領」と会見で強調する。むろん、選挙狙いである。戦争中は大統領の支持率が跳ね上がる。
 人の商売だから口出しはしないが、ここで問題にしたいのは「戦時中」という言い回しだ。戦時中は政権を批判するな。一致団結しろ。日本でもツイッターなどでさんざん言われている。しかし、一つ忘れちゃいませんかてんだ。戦時中なら、富裕層からカネを取れ。所得税の累進税率を上げ、株などの資産課税を強化しろ。
 戦争は、富裕層に課税強化できる、ほとんど唯一の機会である。じつは、中間層も貧困層も、富裕層への増税をよしとしない。カネ持ちになったのは、努力と才能があったから。成功したことにペナルティーを科すべきでないという「アメリカンドリーム」な精神は、庶民にこそ強い。

 そもそも富裕層に重く課税するのは、どういう理屈で正当化できるのか。

 ①支払い能力論。持ってるんだから、払え。
 ②補償論。富裕層は恩恵を受けている。その補償として人より多く払え、というもの。

 

歴史をみると①は分が悪く、19世紀には富裕層増税はほとんどされていない。例外は20世紀、2度の世界大戦があって、広く国民が兵役にとられ、犠牲になったとき、富裕層増税が成った。富裕層には兵隊にとられない方策がいくらもある。また戦争で守られるのは大資本であり、「富」である。その補償を求める声がカネ持ち増税を実現させたというのが、税制史研究の結論だ。
 ニューヨークにいる知り合いの米国人弁護士は、早々に郊外のカントリーハウスに疎開した。ビル掃除をして生計を立てている別の友人は、休めない。それは生活のためであり、社会の必要のためである。屋敷犬なでて茶飲んでテレビ見て「うちで踊ろう」とか余裕かましていられるのは、富裕層だけなのだ。

富裕層税は意味がないという反論がある。

 理由①「こんまい」。みせしめ的に富裕層に課税しても、じつは財源として大したことない。小さい。
 理由②「しょんなか」。海外移住やタックスヘイブン租税回避地)などで、富裕層は容易に節税、脱税できる。無駄。

 わかってないな。山奥の漁師はそう思うのだ。こんまいだのしょんなかだの、そげんなこつじゃなか。消費税や赤字国債も必要だろう。しかし、その前にすることがある。税とは、社会とは、公正さ、いやさ「公正らしく見えること」が死活的に重要なのだ。花見や検察人事に怒るのも、不正があったからというより、公正そうに「見えない」からだ。
 社会とは、共猟だ。公正さ(フェアネス)がない共猟など、やってらんない。「稼いだのは自分の才覚、生活が苦しいのも自己責任」。そういう論は幼稚だ。人間観、世界観、死生観が、ガキっぽい。
 ど田舎の血だらけ猟師には、そう見えるのである。

 

なんですか、これ。

内容的にも文章的にも素晴らしいじゃないですか。

冒頭の伏線の回収の仕方も上手です。ただ、ちょっと方言がうるさいかな……と思いましたが、読み直してみると、ここを青筋立てて力説するようだと、それこそ「ガキっぽく」みえてしまうため、あえてこういう文体にしたのかな、と感じました。

なるほどなあ。

 

内容の「戦時中の増税」はたしかによく言われることです。

相続税日清戦争の戦費調達のために創設されまして…」というのはウチの所長の決り文句でもあります。

そうか、いまはそういう時期なんですね。

「持続化給付金」を始めとするもろもろの支援策は、こういう手続の知恵がある人は簡単に申請してもらえるけど、本当に必要としている低所得層の人々に届かない、なんて批判もあります。現状の政策

は非常事態なので、対症療法としてやむをえないし、とりあえずそれは上手くいっているとわたしは考えています。

次の一手、富裕層への課税を厚くし、低所得層への手当を広げるにはどうすればいいのか、そしてその手段の是非についても考えていきます。

 

最後に、近藤康太郎氏の写真。

 

(「田舎の猟師」時)

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(都市活動中)

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