部屋の整理をしていたら、新聞の切り抜き記事が出てきました。
老後資金2,000万円問題が話題になったときの記事で、どこかに書き留めておきたかったんです。
とりあえず、3人の意見を引いておきましょう。
【朝日新聞・耕論】「2000万円不足」の衝撃
坂口力さん、山田俊浩さん、岩城みずほさん (2019年6月26日)
老後の生活費は2千万円不足するとした金融庁の報告書。反発が広がると、政府はそれをなかったことに。「100年安心」と言われた年金と老後のおカネ、どう考えればいいのか。
不安解消、政治家が主導を
老後に2千万円が必要という金融庁の報告書をめぐる今回の混乱は、とても残念です。実態から言って、これまでの日本の高齢者の平均をとれば、年金のほかに月に5万円ほどがかかっているというのは事実。しかし、どこに住むのか、どんな暮らしをするのかによって、必要なお金は千差万別です。
高齢者の生き方、暮らし方の問題と、年金制度の持続性というまったく別な話がごっちゃにされてしまっているのが問題です。一律のデータを使って国民の不安をあおり、株や投資信託を始めさせようというのはおかしい。
「年金100年安心プラン」という言葉は、私が初代厚生労働大臣として年金改革に取り組んでいた2003年に、総選挙向けに公明党が打ち出しました。
当時、年金制度がコロコロ変わっていて、これから年金の制度そのものは大丈夫なのか、崩壊するのではないか、といった不満と不安が出ていたのです。04年に抜本的な改革を行ったのは、100年後も年金制度そのものが安心できる存在にしなければ、という思いからでした。
日本の年金制度は、現役世代が払う保険料を高齢者に渡す「仕送り方式」です。ですから、少子高齢化で高齢者が増え、働く世代の人口が減れば、給付は減ってしまうのです。そこで、現役世代の負担が重くなり過ぎないよう保険料の上限を固定し、国庫補助を増やし、年金積立金を100年かけて一部取り崩すことなどを導入し、安定化させたのです。給付水準を調整して減らすこともあり得ます。100歳までだれでも年金だけで十分生活できる給付が受けられるということをうたったわけではなく、100年後も公的年金が高齢者の生活の柱となるように、抜本的な改革を行ったのです。
結果として、今回の騒動で国民が不安になっているのは事実でしょう。かつての自民党であれば、あり得なかった事態だと思います。かつては与野党問わず「厚生族」「社労族」と呼ばれた専門家の議員がいました。
1970年代、私は当選直後から、与野党を超えて、こうした専門家の議員と社会保障について勉強し、議論を重ねていました。いまはそういう専門の政治家集団の流れが途切れてしまっているのではないでしょうか。
それが続いていれば、あのような報告書がまとめられ、国民に不安を与えることはなかったと思います。あるいは問題が明らかになったときに、与党内の年金問題に詳しい議員から、まっさきに厳しい批判が出たはずです。政治家は官僚任せにせず、もっと自分の言葉でしっかりと国民に語りかけ、不安を払拭(ふっしょく)する議論を主導する必要があると思います。
(聞き手・池田伸壹)
◇さかぐちちから 1934年生まれ。医師。72年に衆院議員に初当選し2012年まで通算11期。公明党政審会長、労相などを歴任。
続きます。