漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

【朝日新聞・耕論】「2000万円不足」の衝撃 (2)

昨日の続きです。

 

自分へ投資、何よりの資産

山田俊浩さん(週刊東洋経済編集長)

 

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 定年後のお金について特集すれば、販売部数が伸びる傾向があります。都市部だけでなく郊外でも売れ、家族の問題として読んでいただいているようです。

 関心の高さの背景にあるのは、不満と不安でしょう。就職氷河期に正社員になれず低賃金に苦しむ人は、一部の恵まれた人が優遇されていると感じています。不安をあおって売ろうとするメディアがあり、金融機関から「不安ですよね」と説明され、政府も「足りない」と言えば、不安になるのは自然です。

 「2千万円報告書」を出した金融庁の審議会は、そんな世の中の敏感さを理解していませんでした。過去20年間、「年金は破綻(はたん)する」とあおられては、それを打ち消すのに苦労してきた厚生労働省も審議会オブザーバーだったのに、「もっと危機感をあおれ」という委員に押されて、あのような報告書になってしまった。理解に苦しみます。

 年金制度は人口や経済情勢に応じて不断に微修正する必要があり、「100年安心」という言葉は有害無益です。今回のような騒動があると、「100年安心はやはりうそだ」と逆に国民の不信を高める原因にもなります。一方で、政争の具にして、不安だけをあおることにも疑問を感じます。人口の構成によって年金財政は決まるので、どの党が政権の座にいてもほとんど変わらないのですから。

 どんな制度で現実はどうなっているのか、理解を深めてもらうこと。繰り下げ受給と共に、高齢期の生き方の選択肢を増やすこと。年金だけでは老後に困窮してしまう可能性がある人に対して、生活保護で事後的に救うだけでなく、事前に彼らの所得増加を促す制度を考えること。そんな努力を、今こそやるべきです。

 年金は、生活保護のような公助ではありません。保険料を払った人たちによる共助で、全てを国がまかなうものではないのです。老後の生活を支える基盤となりますが、このままの年金や退職金だけでは苦しい層がいることも事実。厚生年金の網を非正規雇用者へ広げることや、救貧政策の見直しを併せて考えていく必要があります。

 高齢期の生き方は、特に知ってもらいたいです。引退を延ばして年金受給を1年繰り下げるごとに、8.4%受給額が増えます。5年繰り下げれば、42%増えます。

 やりたい仕事で高齢期に収入が得られるよう、現役時代に勉強しなおし、資格を取ったりスキルを身につけたりする。自分への投資が、どんな金融商品よりも利回りが良い資産と言えます。消費する側ではなく、生産する側に長くいて、社会全体のプラスになる生き方をする。そんな前向きな行動を提案していくべきです。

(聞き手・後藤太輔)  

     
◇やまだとしひろ 1971年生まれ。東洋経済オンライン編集長などを経て現職。著書に「稀代(きだい)の勝負師 孫正義の将来」。

 

週刊東洋経済 2020年4/25号 [雑誌]
 
稀代の勝負師 孫正義の将来

稀代の勝負師 孫正義の将来

 

 (朝日新聞、2019年6月26日)

坂口氏が政治家としての発言であるとしたら、山田氏はマスコミの立場から、その政治家の発言を相対化した発言といえるでしょう。「両論併記」と言いながら、論を示す順番で印象はガラリと変わる。わたしはこのことを森達也氏の著作で学びました。

森達也先生、著作で繰り返しこのことを述べていますよね。

つまり、順番も演出のひとつなのだ。

そう言いたいのだと思います。

 

ドキュメンタリーは嘘をつく

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  • 作者:森 達也
  • 発売日: 2005/03/01
  • メディア: 単行本