税制改正動向ウォッチ記事です。今回で4回め。
自動車減税へ経産省「勝負の年」 財源求め総務省は反発
(朝日新聞 2018年11月7日 朝刊)自動車にかかる税金をめぐり、経済産業省と総務省の対立が深まっている。経産省は来年10月の消費増税や米国との通商交渉を控え、大幅減税を主張。自動車の税金の大半は地方税収になるため、総務省は「代替財源が必要」と譲らず、来年度の税制改正に向け、議論は難航しそうだ。
「今年は車体課税の勝負の年だ」。来年度の税制改正要望を聞くため、6日に開かれた自民党の経済産業部会で経産省の担当者はこう切り出し、自動車減税の必要性を訴えた。
経産省の要望の柱は、毎年かかる自動車税の大幅な減税だ。現在は排気量に応じて年2万9500~11万1千円がかかるが、年1万円ほどの軽自動車税を基準に引き下げるよう要求。仮に排気量1ccあたりの税額を軽自動車税並みに下げれば、最も排気量の少ない乗用車でも年1万3500円の負担減となる。
消費増税対策として、自動車の購入時にかかる税負担の軽減も求めた。2%の増税で、乗用車を買う人が払う消費税は年1700億円増えるとの試算もあり、経産省は「消費税分に見合うだけの十二分な取得減税を」と訴える。
年明けには日米物品貿易協定(TAG)の交渉開始も控える。経産省は、自動車の国内生産の2割を占める米国向け輸出に高関税が課されれば、大量の雇用が失われると強調。電気自動車や自動走行などの新たな開発競争で勝ち抜くためにも、減税によって国内市場を強化する必要があると訴えた。
しかし、この日の部会では、総務省に近い議員たちが猛反発。自動車の税金の大半は、地方自治体に入り、道路整備などに使われているからだ。議員の一人は「経産省の案だと、地方財政に3500億円の穴があく。これだけでアウト。絶対通らない」。別の議員も「地方では道路をつくってほしいという要望の方が強い」と声を張り上げた。
2016年度の自動車に関する国と地方の税収は計約2.6兆円で、総務省は代わりの財源がなければ減税はできないと主張している。
自民党税制調査会の宮沢洋一会長も「地方財政に影響が出ないように、いい知恵が出るかどうかだ」と話しており、年末にまとめる与党税制改正大綱の最大の焦点になる見通しだ。(伊藤舞虹)
自動車税。
ごめんなさい、実務上はほとんど深く考えたことのない税目です。固定資産税と並び、比較的一般の人々の関心が高い税目だと思われますが、自動車税を専門とする税理士、というのはかなりの少数派ではないでしょうか。その理由は、自動車税が固定資産、償却資産の一種であり、地方税であること。「税理士」は国家資格であり、税の専門家の「税」とは「国税」のことです。税理士試験や、制度的な研修でも「自動車税」をメインにしたものはありません。
そして何より、地方税ということは「申告課税」と異なり、「賦課課税」であるということ。これが大きい。申告書を納税者で作成する申告課税方式と異なり、登録すれば自動的に納税額が確定し、納付書が送られてくる賦課課税方式では、税理士が関与する場がほとんどありません。せいぜい、その計算に間違いがあった場合に指摘するくらい。
なので、自動車減税に関する本もほとんどありません。パッとamazonで調べても、ヒットするのはこんなもの。
「自動車税」というよりも、地方税や自動車というカテゴリーで考えたほうがいいのかも、と思いました。
さて、そんな自動車税なのですが、こんな争いがあったとは…。「経産省 × 総務省」。BLっぽく表現してみました。デジタル記事では小見出しがなかったので、以下に引いておきます。
経産省「通商・消費税対策」
総務省「地方の税収に影響」
この官庁省の管轄争い、「所詮、お役所内の縄張り争いでしょ」と関心がない方も多いと思いますが、これ、結構われわれの生活に影響してきます。
管轄の違いで面白いと思ったのは、宝くじを筆頭とする公的なくじ。実は管轄が違います。
競馬が農林水産省! 一応一般財源扱いですが、実質上は農林水産省の財源でしょう。こうしてみると、やはり各省庁の特性が出ていて面白いですね。庶民的な宝くじは総務省、一攫千金的な振れ幅の大きい競艇は、不動産を扱う国土交通省。経済産業省の管轄が競輪・オートレースというのは興味深い。この富くじレースへの参加が遅かったのか、そもそもこの利権の確保には興味がなかったのか。そして、スポーツ振興くじが文科省管轄というのも実におもしろいですね。富くじレースには興味ない素振りを見せていたものの、そうも言ってられなくなったというか。。。サッカーくじが始まる時の勢いはよく覚えています。
と、このように色々なところで省庁の争いというものがありまして、小泉改革だってこの省庁の争いの一環と見ることもできると思います(もっとも、あれは政治家の「族」の話で、官僚間の縄張り争いとはまた異なる次元かもしれませんが)。
で、この経産省と総務省の争い、興味深く成り行きを見守りたいと思います。あ、ちなみに国税庁は財務省管轄なので、直接の関係はありません。のんびり傍観している感じでしょうか。
そして、朝日の記事に関する話ですが、今回は記事内容はすべて同じですね。見出しが異なるだけ。以上の本文でも述べましたが、「自動車減税で対立」の大見出しと、「経産省「通商・消費税対策」総務省「地方の税収に影響」」の小見出しが紙面、「自動車減税へ経産省「勝負の年」 財源求め総務省は反発」がデジタルです。なるほど、たしかに、たくさんの他の情報の中から浮かび上がってくるメッセージとしては紙面(対立、消費税)、ぬるっと文字面を読んで一読達意のことばとしてはデジタルが優れていると感じました。細かい話ですが、この使い分けも各記者が考えられるのでしょうか?
あと、太字にした「総務省に近い」という表現も独特でおもしろいですね。適度にぼかした便利な表現です。わたしも使いたくなりました。「島本町ふれあいセンターに近い関係者」とか、「水無瀬駅前ローソンに近い議員」とか。…だめだ、関係的なものか、地理的なものか判断できませんね。でも、それがさらに曖昧さを出していいのかも。
以上、税制改正ウォッチでした。