漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

「老後資金2,000万円時代」に寄せて。 (朝日新聞3月6日「投資透視」)

コロナウイルスが猛威を振るっています。

こういうときは、外出して積極的な営業をするよりも、いったん立ち止まって自分の足元を見直すのにいい機会なんです。

その一環として、金銭的なライフプランニング、去年の話題に上った老後資金計画を見直してみるのはどうでしょう? 

確定申告の報告時、そんなことをお話しようかなあ、と思っていたら、ちょうどいい記事に出会いました。

 

 

(投資透視)兜町半世紀 再考「老後2千万円問題」 
内外への分散投資で年率3%の運用を

【A】

 昨年話題となった老後2,000万円問題。金融審議会は19年6月、「高齢社会における資産形成・管理」に関する報告書を発表。その一部が誤解されて伝わり、政治問題にもなりました。投資家向けの勉強会でも必ず質問されます。「あれは何だったのか」と。

問題を整理したいと思います。

 夫65歳以上、妻60歳以上の「高齢夫婦無職世帯」で毎月約5.5万円が不足するとの試算をもとにして、平均余命を30年とすると、生涯の不足金額は約2,000万円に達します。ただ、現在の日本人の平均寿命は男性81.2歳、女性87.3歳なので、平均余命を30年とする想定はやや長いと思います。少子高齢化で今後は年金給付額も減少していくでしょうが、人は年を重ねるごとに消費行動も落ち着いていきます。総務省の家計調査年報によると、65~69歳時に比べ、75歳以上の高齢無職世帯では家計の不足額は1カ月で3万円減少するとされています。

 日本の60代後半男性の労働化率は18年で54.7%と世界よりも高い水準にあります。政策支援や企業の受け入れ態勢は今後も前進していくことで、70代になっても40%近い人たちが働き続けるとの調査結果もあります。同じ高齢世帯でも無職でなく、勤労者世帯の家計収支をみると、月8万円の黒字になっています。

 こうした点を考え合わせると、生涯で不足する金額が2,000万円というのは、少し下方への修正が必要だと思います。

  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【B】

 毎月の不足分は貯蓄を取り崩して対応します。2人以上高齢世帯の貯蓄から負債を除いた純貯蓄額は、18年の調査で、世帯主が60歳以上の高齢無職世帯では平均値で2,280万円です。ただ「平均値」を使うと、極端な高額貯蓄を保有する階層が実態をゆがめてしまいます。少ない額から順番に並べ、ちょうど真ん中に位置する「中央値」を使うのがよいでしょう。これは1,520万円程度と推計されます。

 この個人の貯蓄1,520万円を、例えば年率3%で非課税運用すれば、10年で2,000万円を超えることが可能です。過去50年の運用実績を振り返ると、10年以上継続して内外資産へ分散投資をすれば、年率3%を十分にクリアします。現在の市場環境をもとに私が考える資産配分は、日本株式25%、日本債券15%、外国株式25%、外国債券20%、不動産投資信託REIT)10%、金(ゴールド)5%という比率です。REITと金への投資は、波乱が起きた時のリスクヘッジを意識したものです。

(ノースアイランド投資顧問 白石茂治)

 

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この記事は実に興味深い。

 

投資関係の記事を読む時、わたしはその記事の内容を吟味する前に、まずその記事の性質といいますか、どういう立場で書かれているものか、ということを確認します。

投資関係の記事って、アフィリエイト目的で書かれていたり、所属する組織の値上がりを期待して書いていたり、自分の保有する証券の値上がりを煽る目的で書かれていたりします。

その意味で、かなり「偏向放送」なんですよね、おそらく、みなさんが思っているよりもずっと。こういうの、「ポジショントーク」というわけですが、この白石氏の記事、これをどう受け取るか……その解釈が実に興味深いんです。

 

まずこの記事、【A】と【B】とで主張が揺れている。

わたしがこの記事を読んだとき、一瞬混乱してしまいました。 

【A】では、「老後資金に 2,000万円が必要」というのは少し金額が大きすぎるので、「2,000万円という金額は下方修正が必要」とする一方で、【B】では、「2,000万円貯めるなら…」という話で、運用の具体的な話を展開しています。

 ちょっとここ、飛躍がありますよね。

 

ただ、わたしは白石さんの記事にいちゃもんをつけよう、というつもりは全然ないんです。むしろ、この文字数でよくクリティカルなことを詰め込まれたなあ、と純粋に敬意の念を表します。

わたしの要望を述べるなら、単純に【A】と【B】をつなぐハシゴがほしかった。

「2,000万円はいらないと思いますが、まあ、強いて2,000万円を貯めようと言うならば…」というような。

 でも、ここで挙げられている「1,520万円」というのは、「世帯主が60歳以上の高齢無職世帯」の中央値なので、「10年かけて増やす」というのに十分かどうかはわからないんですよね。

 というわけで、この記事は政府発表を敷衍した内容のカラーになっていますが、まだ分析が不十分。もっともっと条件を絞り込み、場合分けして提示できるはずです。

 ……しかし、それはこの紙幅では無理な相談です。むしろ、このスペースでここまでクリアに提示できることを賞賛すべきなんです。投資実績の目安は、1%は超安定、5%以上はプロでも四苦八苦、3%が素人の目標数、なので、ここで挙げられている数字も無理がありません(ただ、3%を達成するのには、営業の方の言葉を鵜呑みにせず、自身の判断が必要です)。 

 

そして、最後に手数料。

3%の運用実績を達成しても、手数料が3%かかるのなら意味がない。プラスマイナスゼロです。預金してたほうがマシ。あ、でも iDeCo ならその投資金額が100%所得控除されるわけで、その意味で強力ですね。商品にもよりますが、たぶん、手数料なんて吹っ飛んじゃうくらいメリットがあります。

まあ、運用手数料、投信の信託報酬が3%なんてのは現実的にはありえませんが、これは少なければ少ないほどいいのは間違いありません。この点もお見逃し無く。

 

以上、投資、資産運用に関するメモ書でした。

なにかの参考になれば、と思います。

 

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