……おいおい、そんなの聞いてないぞ。
先日の昼休み、amazon の新刊マンガのリストをみて思わずつぶやいてしまいました。
『ギャラリーフェイク』34巻。
これって、32巻で完結したはずですよね?
調べてみると、2012年からぽつぽつと復活していて、2017年からは月刊誌のビッグコミック増刊号で連載しているみたいです。おかしいなあ、アマゾンは毎日チェックしてるのに、これにはまったく気づきませんでした。まあ、とにかく今気づけてよかった。
既刊の32冊は今でも手元にあり、懐かしさも手伝ってパラパラページをめくってみると……やっぱりおもしろい。
文字通りページを繰る手が止まらなくなってしまい、結局1巻から全巻通読することになってしまいました。
これはいかん、この本は電子化して、つねにアクセスできるようにしておかなければ。
そう思って32冊(と新刊の33、34巻)すべての電子化に取り掛かったのが1週間前のこと。やっと昨日終了しました。
これで、いつでもどこでもフジタとサラ(と三田村館長)に会えます。
33巻。いつのまにか出てました。
細野不二彦先生はすごい漫画家です。
わたしが初めて知った細野作品は、おそらく多くの人と同様、『Gu Gu ガンモ』のアニメだったのですが、愛らしいガンモのキャラクターと、クセのある登場人物に夢中になったのを覚えています。
同じくアニメで見た『さすがの猿飛』の魔子ちゃんに、生まれて初めて今で言うところの「萌え」を感じたことは、これまで誰にも話したことのない話です。
佐藤の『ヰタ・セクスアリス』。
そして、決定的だったのは『ママ』!
これはわたしにとっての『三太郎の日記』でございます。
いまでは誰も口にしない言葉ですが、教養小説(ビルドゥングス・ロマン)としてわたしは読みました。さしずめ「ハギワラの日記」とでもいいましょうか。
悩める少年に響く数々の名言が眠ってるんですよ、このマンガには。
・「男の純情」
(『ママ』1巻)
男の純情なんて、女にしてみればちんちんの皮とイッショでうっとーしいだけ。
「〇〇君の気持ち、ちょっと重いよ!」というやつですね。
今ならわたしもよくわかります。
・「男は二通り」
(『ママ』6巻)
男は二通りさ。
どうにかこうにかして、一人前になれるやつと ―― 一生ガキのまんまやつ!
どきり。俺は一生ガキのまんまかもしれないーー20代は真剣に焦ってました。もっとも、40代になった今でもあまり変わっていませんが。
・「やさしい人」
(『ママ』4巻)
誰からもやさしいって言われるような男には、気をつけたほうがいいよ!
そういう人は、たしかに、ふだんまわりにやさしくふるまっているけれど…
誰にいちばんやさしいって…じつは“自分”に対したときなんだよね!
これは多くの人の心に「刺さった」言葉のようで、『ママ』というとこの言葉を挙げる人に結構会いました。みさをと話してるのは主人公のハギワラの母親なのですが、コマ割り、演出、完璧ですね。ちなみに、「やさしさ」は『ママ』を通奏低音のように流れるテーマでして、複数の登場人物によって、さまざまな場面で、繰り返し提示されます。
、
(『ママ』3巻)
誰からも憎まれたくない人間は――、誰からも愛されないものなんだよな。
『ママ』という作品は主人公ハギワラの成長物語ですが、これはマンガ家細野先生の成長の軌跡の作品でもあるように思われます。というのも、『ママ』の前後で細野作品は画のタッチを筆頭に、雰囲気がガラッと変化するためで、この作品はおそらく細野不二彦という作家を考える際に重要な作品だと考えています。
ハギワラが最後まで守った誇り。
それは若かりし頃のわたしのお守りのような言葉でした。
(『ママ』8巻)
そりゃ、オレは……今、プータだけど、
でも、あんたみたいな負け犬には……ぜったい なりたかないんだよな!
若き細野先生の力強さがあふれるコマ。
ハギワラが2人目の「父親」を殺した瞬間です。
そうか、『ママ』は2人の父親を殺し、2人の母親と決別する(そして3人目の母親に取り込まれる)物語とも言えるのかもしれませんね。今気づきました。そう考えると『ママ』というタイトルは実に意味深です。
わたしは大学受験浪人生~大学生の頃に読みました。
悩める少年にぜひオススメしたい話です。
さて、実にタイムリーなことに、『ギャラリーフェイク』34巻の出版と同時に細野先生についてはこんなムックが出ました。
漫画家本vol.9 細野不二彦本 (少年サンデーコミックススペシャル)
- 作者: 細野不二彦
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2018/09/28
- メディア: コミック
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表紙が香山リカや天宮詩織ではなく、魔子ちゃんとサラなのも「わかっている」感、出てます。
これを見ると、やはり『ママ』は細野先生が青年誌に描き始めた頃の作品で、この作品では「キャラクターを頭で作っていたような部分があった」とのこと。これこそ、青年誌という新しい舞台で活躍するための模索の時期であったことの表れの言葉です。
それにしても、このムックは素晴らしい。
『あどりぶシネ倶楽部』『うにばーしてぃBOYS』『BLOW UP!』を青春三部作と呼んで、細野作品の転換期として重要な作品として位置づけているところなど、共感点多々。この3作、好きだったなあ。
わたしは掌編というか、出来の良い読み切りの小品を好むところがありまして、細野先生はそういうのが実に上手い。あと、タイトルを付けるのも実に上手くて……とダラダラ続けると、このままいつまでも書けてしまいそうです。
しかし、肝心の『ギャラリーフェイク』について何も書けていない!
というわけで、次はフジタについて書かせてください。
『ママ』が男として生きる上での指針を教えてくれたのだとすると、『ギャラリーフェイク』はわたしに美意識を教えてくれた話です。
それでは、皆さんが文化的な生活を送れますように。
ガンモの好物はコヒーガム。
荒木先生、ジョジョのイギーはガンモへのことが頭の片隅にありませんでしたか?
「魔子ちゃんいじめた!」「恋の呪文は スキトキメキトキス」です。
少年よ、悩んでいるのは君だけじゃないぞ。
いま読むと、トメボーが自分の息子に見えて可愛くて仕方ありません。相田みつを的な名言はこの巻です。
完璧なハギワラ母のセリフはこの巻。ハギワラ父の話の唐突さは『スラムダンク』並。細野不二彦と井上雄彦における父性の闇は深いテーマだと思います。
「負け犬」のセリフはこの巻。
それにしても、なんでハギワラはみさをを選んだのでしょうか。
わたしなら、選ぶのは絶対佐倉の方なんだけどなあ。当時も今も変わらない感想。