漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

ふるさと納税、賛成/反対 首長による両論併記記事。

ふるさと納税、昨日の続きです。

朝日新聞 10月3日「耕論」より。 

 

実は昨日の森信先生のコメントは3つ目のコメントでして、その前にザックリとふるさと納税に賛成/反対の地方自治体の首長の主張(シャレではありません)が掲載されていました。

www.asahi.com

公平の立場を守りたいメディア(まさに朝日新聞?)お得意の両論併記というやつです。

まずはふるさと納税「賛成」派。

 

特産品ないと厳しさ増す
■末安 伸之(すえやす のぶゆき)さん 佐賀県みやき町

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 2005年に3町が合併して誕生したみやき町は、人口約2万5千人、税収約27億円の町です。昨年度は、税収の3倍の72億円の寄付をふるさと納税で頂きました。
 08年5月にふるさと納税制度が始まると、すぐに寄付の受け皿となる基金を創設し、7月には受け入れを始めました。しかし、寄付額は年間100万~200万円という状態がずっと続いてきま した。
 そんな中、13年に県内のある自治体が急に、寄付額を大きく伸ばしました。調べてみると、民間が運営するふるさと納税サイトに登録していたことがわかりました。早速、あるサイトに登録したところ、15年度の寄付額は約9億7千万円に跳ね上がり、16年度にサイト数を増やすと、約14億8千万円に増えました。
 周辺自治体もサイトを使うようになるにつれ、返礼品競争が始まりました。当時、みやき町は寄付額に対する返礼品の金額の割合(返礼率)を3割程度に抑えていましたが、周辺自治体が次々と高額の返礼品を贈る中、対応策として、返礼率を約4割に上げざるを得ませんでした。
 今回のふるさと納税をめぐる混乱の原因の一つに、当時の野田聖子総務相の発言があると思います。総務省は昨春、返礼率を3割以下とし、家電などの豪華な返礼品を認めないとする通知を出しました。しかし野田氏は昨年9月の新聞インタビューで、家電や商品券など換金性の高い返礼品についても「地方の首長の良識ある判断が第一義。いたずらに止めることがあってはならない」と述べました。
 この発言をきっかけに自治体から自粛ムードが消え、再ぴ、貴金属や商品券といった返礼品を贈る自治体が出てきまじた。特産品の少ないみやき町も「家電を返礼品に加えてほしい」という町内の電器屋からの要望に応え、ロボット掃除機やiPadなどの家電を返礼品に加えました。
 今回の総務省の方針を受け、家電などの返礼品をやめ、返礼率も今年度中に30%に下げます。寄付額が減ることが予想されますが、小中学校の給食費補助などは、基金を取り崩しながらできる限り続けたいと考えています。
 返礼品を地場産品に限定すれば、特産品のない自治体の財政状況はますます厳しくなり、特産品がある豊かな自治体はますます豊かになります。ふるさと納税が、自治体の財政状況の格差を拡大させることになるのです。ほとんど地場産品がない自治体を見捨てていいのでしょうか。
 総務省の現況調査は、正直者が損をする自己申告ペースです。「返礼率3割以下」「地場産品に限定」というルールや、調査のあり方も含め、都市部や地方の自治体の代表者が加わり、制度設計を議論し直すべきではないでしようか。 (聞き手・山口栄二)

 

うんうん、わかります。

本当の「地方」の地方自治体にとっては、このふるさと納税は死活問題、起死回生の妙手ですよね。これを活用しない手はない。

―他の地方自治体がこの制度を有効利用している以上、われわれも使わざるを得ない。しかも、中央の意向には従っています。何か問題がありますか?

問題はないと思いますよ。しかし、こうしてみると、最後の「制度設計を議論し直すべきではないでしようか」という言葉、昨日の森信先生と同じことを言っているようで、まるで違うことを述べてますね。いや、森信先生は「制度の根本」、末安市長は「制度の設計」、よく読むと違いがわかりますね。

日本税制という大会に、「ふるさと納税」という競技を入れるか(森信先生)、この競技のルールを考え直すか(末安市長)、という違いです。この2人が話し合っても議論はかみ合わないと思います。

 

さて、続いて、反対派。

返礼品依存 真の活性化か

田中 良さん  東京都杉並区長

 

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 杉並区は昨年度、ふるさと納税により住民税が13億9千万円流出しました。今年度は18億7千万円にのぼる見通しで、この5年で47倍に増えました。一方、寄付として流入するのは約5千万円です。23区では地方交付税による補填もありません。
 学校の体育館へのエアコン設置や介護施設の増床など、やりたいことは山ほどあります。予算の関係で取捨選択せざるを得ない中で、10億円以上の減収はとても痛い。
 そもそも住民税は、「どんな行政サービスを求めるか」という住民合意を実現するため、住民が所得に応じて負担する「全員参加の会費」みたいなものです。それを返礼品目当てで外の自治体へ振り替えることを認める仕組みは、税の趣旨を逸脱しています。
 ふるさと納税は「税」と銘打っていますが、実際は寄付行為です。寄付とは本来、見返りを求めず「有効に活用してほしい」という思いを託すもの。それなのに受け取る側が「3割は返すから寄付してね」なんてありでしょうか。
 だから杉並区は返礼品競争には参入しません。頂いた寄付を被災地へ音楽を届ける日本フィルの応援などに活用していますが、お礼は出しません。この制度で返礼品を認めているのは、障害者の就労支援につながる品物だけです。
 この制度をきっかけに、地方の自治体が地場産品を発信しようと工夫し、PRが進んだことは良かったと思います。ただ軌道に乗った後はいつまでも「官製通販」に頼るのでなく、民関市場に委ねるべきです。このままでは、寄付金を多く集める自治体ほど「返礼品経済」への依存度が高まります。これが真の地方活性化と言えるでしょうか。
 東京への一極集中化が進み、地方が疲弊している現状の打破には、都市部の自治体も取り組むべきです。地方が立ち行かなくなれば東京にもはね返り、日本全体が沈滞するからです。
 こうした問題意識から、就任以降、地方の交流自治体と連携して、小中学校の移動教室、他自治体での特別養護老人ホームの整備などの事業を増やしてきました。地方の経済活性化につながり、区民にもメリットのある事業です。
 制度の改革案として提案したいのは、こうした都市と地方との交流・共働事業にかかる経費を住民税の流出分から控除し、都市の財政へ戻すことです。こうしたインセンティブがあれば、都市の自治体は自らの問題として地方活性化へ主体的に取り組むようになるのではないでしょうか。
 ふるさと納税で、自分を育んでくれた故郷を活性化したい――。旗振り役の菅義偉官房長官の思いは、分かる気がします。でもそれが返礼品競争になっているのは、ご本人も本意ではないと思います。
    (聞き手・藤田さつき)

 

これも正論だ。何も間違ってないと思いますよ。

ただ、この話、あなたが杉並区の首長でなくても同じことが言えますか? つまり、佐賀県の首長であっても、という疑問はあります。仰っていることは本当に正論で、首長でも何でもない一市民のわたしも同じことを考えていました。高所得者のカタログギフトになってるのはおかしい、住民全員の参加費を払わないで済むのはおかしい、ごもっともです。で、「杉並区は返礼品競争には参入しません」というのは本当に正論なのですが、裏を返せば、「返礼品競争に参加しなくてもやっていける」のではありませんか? …という素朴な疑問が(ちなみに、税理士法人 水無瀬野の所在地である島本町も、失礼ですがみやき町やりは杉並区の意見だと思います)。

……だから、首長の意見交換といっても、それぞれ財政が異なるのでそもそも議論にならない気がするんですよね。次元の異なるところからの洞察が必要というか。

で、おそらく朝日新聞が考えたその一段階上の洞察、綜合が森信先生の意見だったと思います。わたしもその意見には心から同意するところですが、実現に関しては政治的な配慮・アクションが大きな役割を果たすことでしょう。

以上、H29年10月時点でのスケッチ、ということで。

  

 

ふるさと納税の本末転倒 (中央公論 Digital Digest)

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