漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

税金「天国」な極楽島美術館。 税理士フジタ(2) 

今回の記事は前回の続き、「税理士」なフジタです。

 

第14集に「極楽島美術館」という話があります。

この話は、美術面、税務面、政治面のどこからみても興味深い話でして、フジタの「変態性」と同じくらい、このブログの『ギャラリーフェイク』シリーズで書きたかった内容です。少し長くなりますが、じっくりお読みいただければ幸甚です。

あ、あらかじめ申し上げておきますが、タックス・ヘイヴンが「Tax Haven」であって、「Tax Heaven」・「税金天国」でないことは重々承知しておりますよ、一応、税理士ですから。

 

 

「極楽島美術館」は、パナマ文書のスクープも記憶に新しい、タックス・ヘイブンの話です。

簡単なあらすじは以下の通り。

ある高名な芸術家が亡くなり、その自作が時価評価すると高額となるため、遺族が相続税の支払いに困窮する。そこで、相続税を支払う為に作品を売却しようとするが、時代遅れ、在庫を抱えられないとの理由で買い取ってもらえないため売却できず、三田村館長の高田美術館などに寄附しようとするも、保管スペースや税制上優遇が受けられないために売却・寄附をして相続税額の資金を工面することは断念。相続自体を放棄するため、自作をすべて償却しようとしたところ、ギリギリのタイミングで顧問税理士から電話があり、一級の美術品に限り寄贈を断らず、相続税も非課税となる美術館が存在する事を知る。焼却を取り止め、後日その美術館を訪れてみると、そこの館長はフジタだった!

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かくして、この高名な芸術家の作品はフジタが館長の極楽島美術館に寄贈されることとなり、フジタは一銭も支払わずに闇ルートの在庫を手に入れた、という話です。
悪いやつだなあ、フジタ。まあ、一応この相続人には、代表作だけなら買い取りますよ、という申し出はしてるんですけどね、市場の10分の1の値段で。

しかしこの話、これだけでは終わりません。高名な芸術家の相続です、税務署や国税庁が黙っているはずがありません。この寄附を怪しいと考えた国税庁職員が調査を提案します。

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なんと、「極楽島」は政治的に極めて取扱が難しい所在地! 「あやしい」と考えられても、書類上体裁が整っているならそれ以上は公的には足を踏み入れられない場所にあったのです。

……すごいなあ、細野先生。この回ではフジタを闇の美術商という黒子に限定させて、この複雑な内容を23ページに収めています。この話をはじめて読んだのは音楽と女の子と哲学のことしか頭になかった学生の時にときですが、すなおにへえ~、と感心したことを覚えています。

さて、この話、もう少し掘り下げましょう。

なんとこの極楽島、実在します。

東シナ海 北緯26度、東経124度って、尖閣諸島の所在地なんですよね。

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つまり、極楽島って、暗に尖閣諸島をほのめかしているんです。

わたしが感心するのは、細野先生の嗅覚とバランス感覚。この話が掲載されたのは97-98年の週刊ビッグスピリッツ。時代背景でいうと、韓国がこっそりと竹島に自国の施設を設置し、じわじわと主張の準備をし始めた時期です。この時期に、竹島でなく比較的静穏な尖閣諸島を選ぶこの「少しずらす」バランス感覚が素晴らしい。

で、さらに「少しずらし」て、島だから「タックス・ヘイブン」という用語を活かして、「タックス・ヘブン」→「税金天国」→「極楽島」としたのでしょうが、これはやりすぎでしたね…。

というのも、以後、日本では「タックス・ヘイブン」=「タックス・ヘブン」と誤解する人々が多すぎて、今の視点からは細野先生もそのうちの1人とみなされてしまうおそれが。。。つまり、「Haven」と「Heaven」の意図的なシャレが理解されないのではないでしょうか。「な~んだ、細野不二彦も間違えてんじゃん!」というやつです。これは細野先生の誤算でしたね。細野先生の名誉のために、ここで上の通り解説いたします。これ、「Haven」と「Heaven」の類似を踏まえた、「Heaven」→「極楽」という仕掛けですから、誤解なきよう。

 

と、まあ、素晴らしい話なのですが、税理士として2点だけ疑問点があります。

さらに深められる話ですので、あえて指摘させていただきます。

 

まずは軽い方から。

話の中で、三田村館長が高田美術館は私立美術館ですから、寄附は贈与になる、と応える場面がありますが、贈与税がかかるのは個人だけですよ? 三田村館長、ここは優等生らしくビシッと「法人税」と言ってほしかった。

 

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フジタの極楽島美術館も私立美術館なので、法人の分類としては同じ分類の「公益法人」になるはず。そして、極楽島美術館に比べて高田美術館はまっとうな営業をしています。フジタの極楽島美術館が非課税で済むなら、高田美術館も優遇措置を受けてしかるべきではないでしょうか。後から調査を受けるかもしれませんが、少なくとも申告の時点では問題ないはずです。高田美術館に寄贈した美術品は非課税とされるはずです。この話のプロット、ロジックに関わる問題です、ストーリーが破綻してしまいます。

ここはもう少し詳しく説明してほしかった。

おそらく、高田美術館の資金では、優遇措置を受けても納税できないほど税額があまりに高額になる、ということが言いたいのだと思います。で、極楽島美術館は相続人の申告とは異なる処理をしていて税額僅少だが、政治的に問題があって税務調査に踏み切れない、と。

他の解釈としては、高田美術館は財団法人ではない、ということ。たしか、この美術館を含む財閥グループは親族経営で、その出来の悪い1人が高田美術館の理事に赴任する、という話が合ったと思います。もしかしたら、株式会社とか、営利性を追求する法人なのかもしれません。それなら辻褄が合います。

もうひとつの解釈は、高田美術館も財団法人であり、公益法人ですが、課税当局から相続財産の寄贈が非課税となるほどの公益性は認められていない、という可能性です。これは現状でも判断が難しい。例えば、一般的に、NPO法人に相続財産を寄付しても、その財産にかかる相続税の計算上非課税とはなりませんが、「認定」NPO法人なら非課税となります。また、社団法人を利用した節税(租税回避?)、というのもありまして、相続税公益法人の関係は繊細にして実に複雑。憲法民法と異なり、税法は毎年と言っていいほど改正される法律。97年当時は、もっと繊細な決まりがあったのかもしれません。


そしてもう1つ、これは重い方。
美術品、燃やしても相続税は軽くなりませんよ!

 

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相続財産を相続後に滅失させても、相続税は軽減されません。なぜなら、相続税の計算は、非相続人が死亡した時の現況で判断するからです。原典のマンガでは、相続人が焚き火を囲み、「これしか方法がないんだ…」と、いままさに美術品を燃やそうとする場面がありますが、燃やしてもダメですよ! 正確には、「放棄」しないと。

この「放棄」とは民法上の概念で、相続する権利はありますが、財産も債務も相続しません、という意思表示です。それには、財産を滅失させてもダメで、実際には法に適った手続が必要になります。税理士として、これは強調しておきます。

以上、税理士フジタでした。

余談ですが、ここで登場する税理士の先生が所属する事務所は「小田会計事務所」。もしかして、細野先生を担当されている税理士の先生も「小田」先生なのでしょうか。そんな邪念も浮かびました。

今回の記事の作成にあたっては、以下のブログを参考させていただきました。ありがとうございました。

 

中身はどうなのよ!? : ギャラリーフェイクに尖閣諸島がモデルになった島が出てくる。

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