内部留保課税についての軽いコラムを目にしました。
もちろん、内部留保は積極的にすべき経営判断だとは思いませんが、つねに批判すべきことだとも考えていません。
(経済気象台)400兆円の賢い使い道
(朝日新聞 2018年 11/14)世界的な景気回復で日本企業の内部留保は6年続けて過去最高を更新し、昨年度は446兆円に達した。
内部留保は、企業の利益のうち設備投資やM&Aなどの再投資に回す目的でためておくお金と位置づけられている。韓国では時限立法とはいえ、企業の利益のうち投資や賃金増、配当などに回らない部分に課税する。株主にとって配当が増えるメリットはあったが、賃上げにはつながっていないようだ。
内部留保に課税すると、企業は慌てて投資に回し景気がよくなるというお上の思い込みと、経営者の心にはギャップがある。
そもそも企業の利益には多額の法人税が課せられている。内部留保課税は税引き後の利益にさらに課税する二重課税じゃないか、という批判がある。
また、そんなことをするのであれば、本社をシンガポールなどに移そうかと真剣に考える企業も出てきかねない。
一方、内部留保が向けられる投資について考えてみると悩ましい。今後の投資は人工知能やロボットなど近未来に備えるものが中心となるだろう。
例えば、メガバンク3行はこうした取り組みで計3万人分の業務を削減すると発表している。確かに銀行窓口の手続き面を自動化する人員削減は利益に大きく貢献する。しかし、自分たちがコツコツためた内部留保を使うことで、人員削減の対象になってしまうのは悔しい。
人間同士のふれ合い重視であえて自動化しなくてよい分野もあるのではないか。研究開発、環境保護などの課題解決にも人間の知恵が必要だ。省力化への投資と、人間の役割を同時に考えるのが、経営者の腕の見せどころだ。 (山猫)
今日はこの内部留保課税への是非は問いません。ただ、まあ企業が利益を追求する存在だとしても、現状が自社事業にとってあまりにも不利な場合においては、やみくもに投資に走らず、じっと我慢して内部留保を重ねる、という選択もありなのではないでしょうか。現状では、法人税法上、内部留保課税となるのは「特定同族会社」だけであり、その意味でも、税法は利益処分の選択肢のひとつとして内部留保を認めている、と判断できると思います。
また、経営者には利益の追求のほかにも、雇用関係にある従業員の生活を保証する、という仕事もあるでしょう。ここは議論のあるところだと思いますが、少なくとも日本の企業には、これが経営者の役割の一つであると考えられているところがあります。そう考えると、これって少し前にネットで沸いた孫正義氏と新井紀子先生の対立に通じるところがあるような気がします。
この番組の2人の話し合いが発端。
基本的には、わたしも新井先生の意見に賛成なのですが、孫氏も従業員のことをまったく考えていないわけではないと思います。ただ、経営者の立場からすると、新井先生のような反論があることは重々承知の上で、それでもあえて革新の道を主張しなければならなかったのでは、とも思います。そうでないと、安易なラッダイト運動に屈する事になってしまう、と。
このように、内部留保課税は慎重な議論が求められる制度です。その意味で、希望の党が主張した内部留保課税という政策は、まだ時期尚早、議論が熟していなかったのではないでしょうか。