漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

国税庁の規制強化を受け、「節税保険」販売、生保4社停止へ

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大変なことになりました。決して大げさではなく、税理士・会計事務所業界にとっては現時点で今年1番大きなニュース。もしかたら、インパクトの大きさは今年の終わりまでこのままかもしれません。

生保各社、「節税保険」の販売停止 課税見直し方針受け
(2019年 2/14 日本経済新聞 朝刊)

日本生命保険など生命保険各社は13日、節税目的の加入が増えている経営者保険の販売を一時取りやめることを決めた。国税庁が同保険の税務上の取り扱いを見直し、支払った保険料を損金算入できる範囲に制限をかける検討を始めるため。中小企業の節税ニーズをとらえて市場が急拡大してきたが、転機を迎える。

日本生命のほか第一生命保険明治安田生命保険住友生命保険が解約時の返戻率が50%を超える法人向け保険の販売を14日から停止する。外資系のメットライフ生命保険なども販売を止める。国税庁が13日、同保険の課税方法を定めた通達を見直す考えを生保各社に伝えた。各社は見直し案が固まるまで販売を自粛する方向だ。

販売を停止する経営者保険は中小企業が契約主体となり、経営者が死亡すると数億円単位の保険金が支払われる。保険料を全額会社の損金に算入でき、途中解約すると保険料の大部分が戻ってくる設計で、実態は節税目的の利用が多い。

国税庁は解約時に保険料の大部分が戻る前提の商品については、保険料を損金ではなく資産として計上すべきだとの考え。現在の商品が保険料の全額を損金処理できる点を問題視している。法人の保険料の税務上の取り扱いを定めた通達を見直して制限をかける。

節税保険は中小企業経営者のニーズをつかみ、市場規模が数千億円にまで拡大。金融庁が節税効果を強調した販売手法などを問題視し、各社は商品設計や販売手法を見直す準備に入っていた。国税庁が商品の根幹である税の取り扱いを見直すことで、より根本的な見直しを迫られた。

 

この「節税保険」の販売停止、いつかはこうなるだろう、というのは業界で噂されていました。課税当局が問題視していることはどのメディアでも繰り返し報道されてきてましたし、むしろ「いつ販売停止になるかわかないこと」を営業トークにして、「節税保険」をすすめている代理店もあったと思います。

きっかけは、日本生命が2017年に出した新商品「プラチナフェニックス」。支払った保険料の全額が損金算入できて、解約返戻率の増加、いわゆる「立ち上がり方」に特徴のある保険です。この商品がいったん金融庁に認められると、他の生保会社も類似商品を販売し始めました。この状態を苦々しく思ったのが国税庁。また、いったんは許可したものの、金融庁は想定外に商品が独り歩きする形に、商品設計の見直しを促しました。このいきさつを説明しているのがこの記事です。

 

 

節税保険 過当競争に終止符 国税金融庁が問題視
(2019年 2/14 日本経済新聞 朝刊)

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国税庁金融庁が「節税保険」にそれぞれメスを入れる。かねて途中解約を前提に、過度に法人税の節税効果を高めた内容や売り方を問題視してきたが、両当局の意向を踏まえて生保各社は同商品の販売を止める。「顧客ニーズ」をとらえた節税保険をめぐる過当競争に、ようやく終止符が打たれる。

「やり過ぎなんだよ。これでいったんブームは去るだろう」。金融庁幹部はこう話す。そのうえで「我々には保障性の商品だと説明しながら、実態は商品設計も売り方も節税目的がメインだ」と憤る。国税庁金融庁とも節税保険を苦々しく思ってきたのは同じだが、問題視している観点はやや異なる。

まず金融庁。節税保険に限らず、すべての保険商品は金融庁が個別に認可している。いわばお墨付きを与えているわけで、けしからんというのは「後出しじゃんけん」のようにも映る。だが、金融庁が問題視しているのは、認可対象外の付加保険料と呼ばれる運営コスト部分だ。

この付加保険料を高く設定すると契約者が支払う保険料も高くなり、損金扱いできる金額(節税効果)は大きくなる。生保各社は事前の認可なしに設定できる付加保険料を高くし、損金扱いできる保険料を膨らませる過当競争を繰り広げてきた。

付加保険料が自由化されたのは、生保会社の営業努力でコストを圧縮し保険料を安くするためだった。だが、節税保険の場合は付加保険料を高くするほど節税したい顧客のニーズを満たすという逆転現象が起きた。

金融庁は「節税効果を高めるための恣意的な付加保険料の操作には合理性がない」として、生保各社に是正するよう指導してきた。節税自体を問題視しているというより、売り方や恣意的な付加保険料の設定に厳しい目を向けている。実際、同じ節税保険でも、金融庁が「おとがめ無し」としている商品もある。

一方、国税庁は、そもそも途中解約で支払った保険金の大部分が戻ってくることが前提なら、損金でなく資産として計上すべきだという立場だ。このため、少なくとも保険料の全額を税務上の損金にできる仕組みは見直すべきだとして、今回の生保業界に厳しい措置につながった。

経営者が生命保険に入って万が一に備えるのは自然なこと。とくに経営者と会社が一体の中小企業ではなおさらだ。だが、もっぱら節税目的のためだとしたら保険なのかという根本的な疑問にぶち当たる。そもそも保険が税控除の対象なのは万が一への備えに対する自助努力を支える大義名分があるからだ。節税保険は保険の本質を問い直している。

(亀井勝司)

まさに「やりすぎ」でした。インパクトは大きいものの、わたしに驚きはありません。 

また、上の紹介の通り、日経新聞では大きく取り上げられていますが、朝日では13日の国税庁の規制強化提示の方が扱いは大きく、生保会社の販売停止は2段650字程度の扱い。同じ内容でも、各紙によって扱いは異なります。うーむ、税理士としてはやはり日経を熟読すべきなのですが文化系としては朝日も捨てがたい。

さて、この規制、国税庁の新ルール案では保険料の経費算入が制限され、大部分の商品で節税効果が小さくなるのは間違いありません。ただ、いつ販売された商品がこの規制の対象になるのか、などの詳細は明らかになっていません。新ルールはパブリックコメントを経て正式決定されるようです。以後の動向を観察したいと思います。

あ、節税保険に対するわたしの立場ですが、これらの商品の節税効果は重々認めつつも、よほどキャッシュが潤沢でない限り、お客様に積極的にお勧めすることはありません。わたしのような立場の税理士は決して少なくないはず。以前にも、こんな記事を書きました。

 

 

また、今日2月14日は節税保険規制のほかにも、わたしにとって大きな事件、興味深い記事がありまして、それはまた記事を改めたいと思います。

(引用記事の太字部分は佐藤によります)

 

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