漂えど、沈まず。

文化系税理士 佐藤 龍 のブログです

【2019(初夏)東京行⑤】バローロ、シラーズ、フロンサックの旅。(御茶ノ水・飯田橋)

2019年の東京出張、夏の陣、5回目の記事。

今回で終わりにできるといいのですが。

 

 

 

さて、学士会館での食事を終え、次に会うのが今回の旅で会う最後の友人。

高校からの友人で、かなりの数寄者です。

気の置けない友人である一方で、文化的な方面では気を抜けない友人でもあります。

待ち合わせ場所として彼が選んでくれたのがティーハウス・タカノ。 

ティーハウス・タカノといえば、紅茶好きには定評のある専門店(ということを、不勉強ながら今回知りました)。

すでにこの時点で、数寄者との会話が始まっています。

 

 

――高校時代にこの店のマスターが書いた本を読んで、その紅茶に関する思想に共感してね、それ以来のファンなんだ。

先制の一言。軽いジャブといったところでしょうか。なんて早熟なやつなんだ。高校時代には、そんなこと少しも言ってなかったじゃないか。 その本とはこれのことでしょうか。

 

紅茶 おいしいたて方

紅茶 おいしいたて方

 

 

――つまり、紅茶は、英国趣味に象徴されるような上流階級の文化に限定するのはあまりにももったいないから、もっと気軽に、おいしく日常的に飲もう、という考えなんだよね。

彼は静かに微笑みながらそう言った。

……なるほど。その考えはそもそもの紅茶という文化の始まりから考えても正統性がある。というのも、イギリスの帝国主義時代の代表輸入品である茶は、上流階級の奢侈品であると同時に産業革命を支えた労働者のエネルギー源であった。貴族たちがソーサーで茶を冷まして優雅な時間を過ごす一方で、劣悪な労働条件の中、労働者たちは大量の砂糖を茶に投入することで現代の労働基準法の基準を激しく逸脱するような労働に立ち向かうためのカロリーを摂取していた。高野氏のその思想は、「上流階級の奢侈品としての紅茶」という偏った日本の状況を、その源流にさかのぼってもう一方の軸に振り戻す、反動的な運動と解釈できるのかもしれないね…………などということは一言も口に出さず、その早熟さに今更ながら驚いたわたしは、「へ~、そうなんだ! このスコーン、おいしいね」と間抜けな返事。

なるほど、食に詳しい彼の趣味は、すでに30年近く前から育まれていたわけだ。

 

彼の攻撃は続きます。

 

ーー税理士登録して、役員にも就任したんだよね、おめでとう。

そういって彼が手渡してくれたのが、フロンサックのシャトー・フォントニル、2003年でした。

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Chateau Fontenil (Fronsac), 2003

 

ーー典型的なボルドー右岸、メルローが強い赤だよ。

さすが数寄者。

短いコメントですが、これだけですべて伝わります。ワインを飲み始めたわたしへの粋人からのプレゼント。うれしすぎるじゃないですか。

このようなやり取りができるのもワインの素晴らしいところです。それにしても、なんと絶妙なチョイスであることか、この1本。気取りすぎず、カジュアルすぎないお祝いの一本。……ありがとう、近くわたしの誕生日だから、そのときに開けさせてもらうよ。そう返すのが精一杯でした。

 

さて、このままで終わるわけには行きません。

わたしにも文化系税理士としての矜持があります。さあ、はるばる大阪から持ってきたものを開陳してやろうじゃありませんか。

 

……実はわたしも用意してきたものがあるんだ。CDリリース、おめでとう。少し遅くなったけど、わたしからのお祝いだよ。

 

The Ellington Suites

The Ellington Suites

 

 

デューク・エリントン、『女王組曲』のレコード。

『女王組曲』の素晴らしさはこちらを。

 

 

実は、わたくし佐藤はエリントンの研究者であり、『女王組曲』は音楽家として活動しているこの友人も認める1枚なのでした。

自分の名義、またはミュージシャンとしてクレジットした作品は数多くある彼ですが、今回の1枚は初のプロデュース作品。「オレがオレが」と前に出るよりも、美しさを見極め、場の調和を重視する彼にとって、もしかしたらプロデューサーという仕事はぴったりなのかもしれません。

彼がプロデュースした作品はこれです。

 

Reed Organ Hymns [PSC-001]

Reed Organ Hymns [PSC-001]

 

 

リードオルガン奏者、伊藤園子さんによるソロ作品。

というか皆さん、そもそもリードオルガンってご存知ですか? 

リードオルガンは足踏みオルガンとも言われていまして、電気を使わないで、アコーディオンのように空気による振動をエネルギーとして音を生み出すオルガンのことです。

この作品はそのリードオルガン1台、奏者1人 による音楽を収めたもの。

ソロ演奏ならではの手触り、質感が感じられる繊細な1枚で、郷愁に似た味わいが響きは、時間を忘れて聴き入ってしまいます。

 

この自作に関して彼が漏らした言葉は、もしかしたら今回の旅でもっとも心に深く刺さったことばかもしれません。

 

ーーこのCD、出すのに2年かかったんだけど、3年かけたら出せなかったかもなあ。情熱には、持続時間があるんだよね。 

 

わかる、わかるよ、そのきもち。

素晴らしい! と思って、立ち上げたプロジェクト、わたしもいくつもあるけど、実行/完遂したものよりも、挫折/頓挫したもののほうが多いもの。

なにか素晴らしいアイデアを思いついた時、ひとは「オレって天才なんじゃないか!?」と自画自賛してしまう傾向があります。

でも、アイデアを生み出すって、実は大したことないんですよ。そのものに対する情熱があって、ずっとその事ばかり考えていれば、ちょっと気の利いた人ならすぐに出てくるもんなんです、アイデアなんて。

それよりも、それをいろいろな角度から実行に移せるよう吟味して、実際にそのプロジェクトを開始する方が大変。

でも、これも実務能力があればできることなんです。本当にアイデアが素晴らしいものなら、それを数字で評価して、様々な立場の人が共有できる形にして、目前の締切をクリアしていけばいいだけの話ですから。

一番大事なのは、その動き出したプロジェクトを、減速させずに動かせ続けること、つまり、情熱を持ち続けることなんです。彼の言葉は、端的にこのことを表しているといえるでしょう。

 

成功は99%が情熱! ―――どんな人でもやる気になれる36のアクション

成功は99%が情熱! ―――どんな人でもやる気になれる36のアクション

 

 

それからともに御茶ノ水ディスクユニオン・ジャズ館に行き、パトロールを。

今回の旅でレコードは減るはずだったのに、なぜかここで同じ枚数だけ増えてしまいました。おかしいなあ。

おたがい、情熱を持ち続けることを約束して別れました。

 

そして飯田橋へ。

旅の最後は、今回のそもそもの目的である、認定NPO法人SEEDSのドナー・ピラミッド・セミナー。

 

 

一般法人と同様、NPO法人にとっても資金の調達は永遠のテーマです。むしろ、NPOは営利を目的としていないだけに、その資金調達には株式会社とは違ったアプローチが必要なだけに、特殊といえるかもしれません。

これも学ぶべきことが多い、実りあるセミナーでした。わたし自身が運営するNPO法人F.A.S.T.エクスペリエンスに活かしていきたいと思います。

セミナー終了後、お茶する暇もなくバスタ新宿へ。その後、京都に早朝に到着し、何事もなく出勤しました。

 

この2日間(1泊3日というのでしょうか)は、「充実した時間」という言葉では言い尽くせないほどのを時間を過ごしました。

新たな方向と知見を得、旧友からは活力をもらいました。

明日からがんばります。